けんたろう

女狙撃兵マリュートカのけんたろうのレビュー・感想・評価

女狙撃兵マリュートカ(1956年製作の映画)
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百発百中もときには辛いおはなし。


前半と後半とで物語りの様相が大きく異なる。前半は、渇きに苦しむ隊の、水を求むる悲惨な道中。後半は、孤島で育む、敵との愛。文字面だけ見れば、迚も一作として繋がつてゐるやうには思はれない。
たゞ、観賞に際して、特別違和感は覚えない。前半で密かに萌え出た芽が後半で彌〻花ひらく、其の秀逸な構成の為めであらう。

全編通して非常に印象的であつたのが、様々な描写の為さるゝ海である。救ひ無き環境に於ける希望の象徴として神々しく描かれたと思へば、烈しき波に依りて主人公の葛藤を映したる。まさか海ひとつで、此んなにも豊かに表現が出来るとは思はなんだ。此れも亦た構成の妙なんか知らん。

然うして、──成るほど此れが吊橋効果といふやつか。いやあ、さすがに笑つちまつた。まさかラブコメデイだつたなんて! 然れば、縄で縛るといふ行為も、捕虜と監視役といふ間柄も、最早やエツチである。男に紙を上げたり、看病をしたり、食ひ物を与へたりする様に至つては、──嗚呼、マリユトカ姐さん。否! マリユトカ母さん!

然しマリユトカには一つの核があり、又た彼女らの周囲には否が応でも社会が在る為め、本作が単なる恋愛映画として終はることは運命が許してくれなかつた。
愛と信念の葛藤。貴族と百姓の希望の相違。丸で荒れ狂ふ波のやうに尋常でない、心情の揺れ動き。ひどく悲し。

ずつと気に成つてゐた一作。
後半からは殆どが予想外であつたが、其れも含めて好い観賞であつた。