ダイナ

ペパーミント・キャンディーのダイナのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

2000年公開の韓国映画。1人の男の人生を過去に遡る章構成で描く。

主人公キム・ヨンホの人生の内20年間を映している本作。ヨンホを演じたソル・ギョングの演技が素晴らしかったです。(詳細後述)またどことなくキタノブルー、久石譲的なストリングスを彷彿とさせる音楽もとても美しかったです。あと暴力描写がすごい痛そうな所も良かったです。拷問描写はもちろんのこと、ヨンホが妻を引き摺り回したり間男を叩いたり蹴ったりするんですがそれがもう痛そうで迫力がすごい(笑)。なんというか「パチンッ」とか「ボカッ」でなくて「バチィッ!」「バキィッ!!」で感じで。語彙力がなくて悲しいですが、音響がいい仕事をされているのか、観ているこっちもうへえと呟きそうなくらいの迫力が伝わってきました。

序盤、河原で開かれたピクニック(職場の同窓会)にキム・ヨンホが現れます。盛り上がっていた面々は突然のヨンホの登場に驚きながらも温かく迎え入れます。が、ヨンホの奇天烈な行動や奇声に戸惑う一同。ヨンホは集まりから抜け出してスーツのまま河原に飛び込んだり、しまいには鉄橋上の線路の上で立ち尽くしたりと異常行動をとります。そんなヨンホに向かってくる列車。ヨンホは腕を広げながらそれを待ち構えます。そして場面は過去へ・・・ここから先はヨンホの過去に数ヶ月〜数年スパンで段階をつけて遡っていきます。

【作中エピソード】
①「ピクニック」1999年 春 
②「カメラ」3日前の春
③「人生は美しい」 1994年 夏
④「告白」1987年 春
⑤「祈り」1984年 秋
⑥「面会」1980年 5月
⑦「ピクニック」1979年 秋

まずエピソードが切り替わる度に挟まる線路を進む映像。これが素晴らしい!何がというとここの映像「逆走」なんですよね。これは周囲の人や車が逆走していることから分かるのですが、過去に場面を映す導入として列車の逆走映像を持ってくるというアイデアがとても面白いです。

エピソードが進むごとにヨンホの過去が紐解かれるわけですが、ピクニックでの自暴自棄な姿に至るまでの経緯、ヨンホを構成してきた事柄が段々と垣間見えてきて、また新たに出てきた事柄についてもさらに昔はこうだったという、事実がどんどんと掘り下げられるという脚本がとても面白いです。

過去に遡っていくと、ヨンホの荒々しい性格が映されるんですが、これが最初からそうだったというわけでなく、最後まで観ると元々は大人しい青年だったけども、軍隊での事件、刑事時代の拷問仕事がトリガーになったということがわかります。この20年間、大人しい、悪くいいうと頼りなさそうな好青年から、トラウマによりネジの外れた行動をとる姿、自己中心的に突き進む姿(浮気してた妻を帰らした後で他の女を抱いていたのはちょっと笑っちゃいました。)、全てを失い自暴自棄になる男までを見事に演じ切ったソル・ギョングが素晴らしかったです。

⑥兵役中。1980年5月というと光州事件真っ只中ですね。ソン・ガンホ主演の映画「タクシー運転手」で題材とされていました。あの映画を見る限りではとてつもないほどの血が流れていて、一般市民と軍人双方とも精神を擦り減らしていた時代だと思われます。

最後のピクニックにてヨンホが泣いた理由について。1979年秋時点ではスニムと仲違いをしているわけでもなく、平穏なピクニック風景が描かれています。将来への不安もあったかもしれませんが、女子高生の射殺やスニムとの別れはこの時点で予知できるはずもありません。射殺事件、拷問を経てスニムと真正面から離せなくなってしまいヨンホから離れていきます。おそらく②〜⑦の経験はヨンホの走馬灯だったのではないでしょうか。最後のシーンに関しては過去の自分を体験したヨンホを映していて(デジャブみたいな事を言っていたので)、人生が美しかった頃(⑦)、帰りたかった時代の空気に包まれ涙したのではないかと考えます。最初のピクニックにて列車に轢かれる直前?轢かれた瞬間?いずれにしろ死の際に、自分の人生が美しかった頃まで逆走して行ったのではないでしょうか。

ヨンホが拷問した男は家庭を持っていました。ヨンホが射殺した女子高生には未知数の未来があったはずでした。スニムはヨンホと離れてからも死の際に会いたいと思うほどの気持ちを燻らせていました。人によって様々な人生を辿っている事を想像させる本作。自分の人生が美しかった頃、それは過去のあの時なのか、もしくはまだ未知の未来なのか。ターニングポイントであろう場面にて自分はどういう行動ができるのかという事を考えさせれました。
ダイナ

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