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ペパーミント・キャンディーのpepeのレビュー・感想・評価

4.2
時間は不可逆なもので、人生はやり直したくてもやり直せない。
なのにこの映画は、悲惨な結末を迎える男の人生をどんどんと巻き戻して見せていく。いくつもの分岐点で、冒頭の彼がなぜ「ああなのか」を理解させていく。こう生きたから仕方ない。こう選んだから仕方ない。こんなひどいことをしたから当然の報いだ。ひたすらに見る側に理解を求めていく、重ねていく。

それでも、どこまでか巻き戻したら、違う人生もあり得たのではないか?と思ってしまう。けれど、いつまでもいつまでもその答えは見つからない。彼の人生の終末へのヒントばかりが、時間を遡っても、ずっと散りばめられている。人生というものは、ひとつひとつの分岐を重ねての細い道程ではなく、すべての生きざまを含んでいるから、戻っても無駄だ。そうわからされていくような物語に感じました。

ただ、「もしやり直せたら」を否定しているということは、逆に、彼の生きざまを肯定してもいる、ともいえないかな、と。彼はこう生きるべくして生き切った人間なのだと、無様だろうと惨めだろうと、それが彼なのだと、けして否定しない。そんなふうに、愚かだろうとも必死に生きたひとりの人生に向かいあった、真摯な作品に思いました。奇跡も救いもなくとも、人生は誰にも否定されるものではない、と言われているようで。

ペパーミントの爽やかな芳香を、最初の/最後の彼は嗅いだだろうか。はじまりの/終わりの、唯一無二の香り。ああ生きるべくして生きた彼が、ほんのひとときでも癒しを得られていたら良いなと、そう思いました。
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