このレビューはネタバレを含みます
"ペパーミントキャンディー"(1999)
冒頭 真っ暗闇の中心に光が見える
進んでいくとトンネルを抜ける
そして物語が始まる
鉄橋の下から目覚めた
ソル・ギョング演じる
キム・ヨンホ
深い喪失感と自責の念に
包まれた男は線路の上で
「帰りたい!」
と叫びながら自殺する
"その瞬間の顔"に
とてつもない狂気を孕んでる
死ぬ瞬間の人間の顔を
見たことはないけれど
「これがそうなのかもしれない…」
と思うくらい
その全身の迫力が尋常じゃない
以降走馬灯の如く
現在→過去
を振り返る逆説手法を見せる
列車は真っ直ぐ進んでいるが
人々は逆再生されていることで理解できる
キム・ヨンホの20年が
セクションごとに映し出される
<ピクニック 1999年春>
<カメラ 3日前の春>
<人生は美しい 1994年夏>
<告白 1987年春>
<祈り 1984年秋>
<面会 1980年5月>
<ピクニック 1979年秋>
20年という月日の中で
カメラを突き返したこと
スムニに嘘をついたこと
素直になれずに自身の妻と子どもをおざなりにしたこと
警察官から事業家に転身したこと
スムニを想いながらも
別の女性と時を過ごしたこと
国内の経済成長を体験したこと
民主化闘争の中で市街戦(光州事件)で女子高校生を撃ち殺してしまったこと
数々の点となる出来事は
キム・ヨンホの
人生史において線となり
後半 大きな影を
落とすこととなる
タイトルになっている
"ペパーミントキャンディー"
ユン・スムニ(キムの初恋の人)が彼のために渡していた飴で
さわやかさ
甘み
すき通る香り
清涼感
辛み
これらの混ぜ合わさった味が
キム・ヨンホ の『人生』と
掛け合わせる形で描かれる
→ピクニック 1999年春
⇨ピクニック 1979年秋
→鉄橋でキムが目覚める
⇨鉄橋で涙を流しながら目を閉じる
起と結が紐づいている
キム・ヨンホは
何に
"帰りたかった"
のか
彼が帰りたかったのは
<ピクニック 1979年秋>
これからの人生において
輝くであろう希望を感じて
ユン・スムニと歩むはずの道を
自らの手で断絶した
人生そのものを
純粋な気持ちが
残酷さに変わってしまい
その後悔する気持ちを
推し量ることは容易ではない
初めて来た河原なのに
「前にも来たような気がする」
「きっと夢で来た場所かもしれない」
とキム・ヨンホが語る
そしてユン・スムニは
「その夢がいい夢だと良いけど」
と伝える
河原の眩しい日差しと
輝かしい未来が見えていたはず
だから劇中
2度問いかけられる
「人生は美しい」かと
本当はそうであった結末を
想像しながら
そして
「人生は美しい」と確信しながら
全身全霊で
死んでいったのではないか
と観終わって以来
考えずにはいられない