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麦秋のbluebeanのレビュー・感想・評価

麦秋(1951年製作の映画)
4.0
おなじみのなかなか結婚しない娘の話です。少なくとも今は仕事も順調、家族とも友人とも楽しく暮らしていて結婚する必要性を感じない。でも将来のことを考えたり、周囲の声に気持ちが変わっていく。ちょっとした縁談の話が、本人の思いとは関係なく家族たちの中でどんどん膨らんでいく様子があるあるですが、ちょっとぞっとしました。そこで意外な決断をする主人公が時代の変化を象徴していますが、その結果、今の安定した幸福な暮らしが終わっていくきっかけになるところが切ないです。

タイトルは麦秋ですが、その先は冬がきて、いつかまた春がきます。季節が変わるように、家族の形も時とともに容赦なく変わっていきます。良い時もあれば、悪い時もある。

兄が医者だったり、主人公も英語でタイプライターを打っていたりと、登場人物がかなり上流階級なのはどういう意図だったのでしょうか。気になります。ケーキが900円って、当時の価値だととんでもない高さでしょう(今だと万単位?)。経済的な理由で結婚せざるを得ない、という状況が変わりつつあることを見せようとしているのかも、と思いました。

子供の扱い方も印象に残りました。その高いケーキを大人だけで食べて子供に隠すシーンが印象的です。それ以外にも、基本的に子供は放任していて、家族みんながあまりかまってやらないところが目につきましたが、当時はそんなものだったのでしょうか。それともあえて家族の形が変わりつつあることを示そうとしているのか、当時の感覚がないのでなんとも言えないです。

本作は登場人物が本当に等身大で普通の人たちです。そのおかげですごく共感して見ることができました。例えば友人が集まった際に、結婚しているグループとしていないグループでちょっとした言い合いになるところが微笑ましいです。その空気感って、なんだかんだ70年以上経った今でもある程度あるよな、と感じます。

小津映画は室内の構図の素晴らしさだけではなくて、風景も本当に美しいですね。特に今回は北鎌倉の遠景に息を呑みました。

古い邦画にありがちですが、音声が悪くてところどころ聞き取れなかったのが残念です・・。
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