ひろ

麦秋のひろのレビュー・感想・評価

麦秋(1951年製作の映画)
3.7
監督・小津安二郎、脚本は監督と野田高悟の共同執筆によって製作された1951年の日本映画

小津監督のマドンナであった原節子が「紀子」という役名を演じた「紀子三部作」の二作品目である。日本映画の傑作と言われる小津監督の代表作のひとつでもある。テーマは家族や結婚という小津作品定番のテーマだが、「晩春」のように父と娘だけでなく、家族や友人を巻き込んだ複雑な人間模様が描かれている。

昭和の結婚適齢期といったら20代だが、そういう考えに反発するヒロインや、そんなヒロインにやきもきする家族の姿をユーモアに映し出している。当時にしてはモダンテイストな内容だが、これが終戦から6年しか経っていないと思うと本当に驚きだ。小津監督の結婚観は深い。生涯独身だった監督だからこそ、作品に異様な説得力を感じてしまう。

“永遠の処女”と呼ばれた原節子、“日本の父親”と呼ばれた笠智衆、“女優の神様”である杉村春子、小津作品の名脇役・三宅邦子、宝塚出身スター・淡島千景といった最高のキャスティングはたまらない。自分勝手な原節子演じるヒロインに腹が立ち、心配を押し付ける兄を演じた笠智衆にも腹が立つ。空気を読まない杉村春子にも腹が立つが、みんな演技が最高だ。杉村春子が出てきただけで、どんな演技を見せてくれるか楽しみでしょうがない。

小津映画は人情話の完成形というだけでなく、ローアングル、切り返しショットなどで構成された映像技術が素晴らしい。茶の間を映しただけのショットで感動すら覚える。そこに暮らす人々の息づかいが聞こえてくる。ただ、漠然と映画を観るのではなく、そういう細やかな部分を感じながら小津安二郎を味わってもらいたい。
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