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恐怖の時間のodyssのレビュー・感想・評価

恐怖の時間(1964年製作の映画)
4.2
【佳作発見!】

邦画だけど、原作はエド・マクベインの87分署シリーズの「殺意の楔」だとか。

恋人を刑事に射殺された工員(山﨑努)が、拳銃とニトログリセリンを持って警察署に侵入。復讐のために問題の刑事(加山雄三)を殺そうというのだ。しかし署内にはその刑事はいなかった。男は刑事たちを人質にして立て籠もり、目的の刑事が署に戻ってくるのを待つことに。

一方、当該の刑事は妊娠した若妻(星由里子)とともにレストランで食事をし、また自分が射殺した女性の家庭に線香を上げに行くなどして、なかなか署に戻ってこない・・・というような筋書きの映画。

意外な佳作。単純な筋書きだが、実に面白い。刑事だけでなく、途中から外部の人間も人質にくわわり、そのやりとりなどが作品の面白みを維持するのに寄与している。

そんなこととはつゆ知らず、若妻と食事をしたりしている青年刑事もいい。加山雄三と星由里子は、下層階級の工員を演じる山﨑努とは対照的な晴れやかさを感じさせる。刑事だって安月給だけれど、いかにも似合いの若い美男美女カップルが大奮発してレストランで食事をしているシーンには華がある。

加山雄三と星由里子といえば、1960年代初頭の「若大将」シリーズでスクリーン上の恋人として何度も共演しており、当時このシリーズを見ていたファンは実生活でも加山と星が結婚すればいいと思ったというが、そういう二人を敢えて別の映画に起用して幸せそうな若夫婦を演じさせ、復讐心に燃える山﨑努とのコントラストをきわだせているのは、キャスティングの勝利である。

しかし、その加山雄三にしても射殺事件ゆえに警視庁で事情聴取を受けるし、その後は死んだ女性の自宅にお線香を上げにいくのである。女性には幼い弟や妹がいる。いかにも貧民らしい粗末な住居。刑事は、安月給の身にもかかわらず財布にあった紙幣を残らず香典として包んでしまう。そういう、社会的な格差や刑事の微妙な心理も描かれており、奥行きのある映画となっている。

ラストも洒脱。この頃の邦画、質が高かったな。
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