エレキング

意志の勝利のエレキングのネタバレレビュー・内容・結末

意志の勝利(1935年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

ナチスのプロパガンダ映画。
ヒトラーに熱狂するドイツ国民に恐怖を感じた。
ヒトラーは民主的に投票で選ばれたのだ。
この映画で民主主義の脆弱性が明らかになった。
スターウォーズの帝国軍の原点。

そのまんま、スターウォーズだ!銀河帝国だ!ストームトルーパーだ!

『意志の勝利』は、ドイツ人の女性映画監督レニ・リーフェンシュタールが1935年に制作したナチス党大会のドキュメンタリー映画。DVDのパッケージには「すべてのドキュメンタリーフィルムの原点となった傑作!」とある。
まず、最初のシーンが空を飛ぶ飛行機から撮影された雲海。そのあとも、街を見下ろした空撮が続く。1935年にどうやって撮ったのだろう?
飛行場に降り立つヒトラーやゲッペルス、ナチス式敬礼でそれを迎える熱狂的な民衆。
(今見ると全体主義の恐怖しか感じない)
オープンカーでパレードするヒトラーと、歩道に鈴なりになって迎える民衆。ここで時々、笑顔の子供のカットが指し挟まれる。
これは、エイゼンシュタインが編み出したモンタージュ技法に基づいているのだと思う。
21世紀の現在に於いても、同じようなカット割りを映画やドキュメンタリー番組でしばしば見かける。
それらの原点が『意志の勝利』にあることは間違いない。

そして到着したナチス党大会の会場と、整然と並ぶ数万人の兵士たち。これは正にスターウォーズに登場するストームトルーパーそのもの。

なぜ、当時のドイツでヒトラーが熱狂的に支持されたのかというと、第一次大戦の敗戦のあと、ドイツは急激なインフレと失業率の上昇で疲弊しきっていた。
ヒトラーは選挙演説で「ドイツ国民に仕事を与える」と宣言し、その言葉通りにアウトバーンの建設などの公共事業で国民に仕事を与えた。それでも足りない失業者は軍隊に入れて、完全失業率を劇的に下げた。だから、ヒトラーは国民から支持された。ヒトラーの政治イデオロギーなんて、当時のドイツ国民にとってはどうでも良かった。それよりも、ただパンが欲しかった。これが現実だ。

それと、当時はヨーロッパ全土に於いてユダヤ人とジプシーに対する嫌悪感が強かった。
当初、アメリカでさえナチスドイツを支持したのは、そうした背景がある。
戦後、ナチスのホロコーストが明らかになると同時に、「僕たちは、私たちはユダヤ人を差別していない」という主張が欧米を席巻した。以後、ユダヤ人差別はタブーとなる。
それは、自分たちがこれまで抱いてきたユダヤ人に対する反感の裏返し、スケープゴートではなかったろうか?

『意志の勝利』は、端的に言えばナチス党のプロパガンダ映画である。
ヒトラーが英雄として描かれる。いま見ると恐ろしい映画であると同時に、これも歴史の貴重な記録である。

第二次大戦末期、完全に敗北していた大日本帝国に対して、アメリカは広島と長崎に原爆を投下して、一瞬で計21万4千人の命を奪った。その大半は民間人であった。国際法違反の民間人の大量虐殺である。アメリカ政府は、原爆投下について戦後、日本に対して一度も謝罪していない。そればかりか、アメリカは歴史の教科書で「原爆投下は正しかった」と子供たちを教育している。
戦勝国であれば間違いを認めなくても良いのか?自浄力はないのか?歴史を捻じ曲げても良いのか?
アメリカの原爆投下とその後の対応に関して、ナチスドイツと同じ、背中に薄ら寒いものを感じるのは筆者だけだろうか?
また、東京大空襲も酷い。爆撃被災者は約310万人、死者は11万5千人以上、負傷者は約15万人以上、損害家屋は約85万戸という有様だ。
東京大空襲を指揮したカーチス・ルメイは、なんと勲一等旭日大綬章を1964年に浦茂航空幕僚長から授与された。理由は日本の航空自衛隊育成に協力があったためである。
勲一等の授与は天皇が直接手渡す〝親授〟が通例であるが、昭和天皇は親授しなかった。

今もドイツではナチス時代という歴史上の間違いを学校で子供たちに教えている。
しかし、日本の学校教育では、当時の大日本帝国が中国や朝鮮半島に対して、どれだけ残虐な振る舞いをしたか正しく教えようとしない。戦争への反省なくして、次の戦争を防ぐことは出来ないのではないかと危惧する。

『意志の勝利』には、様々な歴史の歪みが凝縮されているように思う。
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