Jeffrey

ヘアピン・サーカスのJeffreyのレビュー・感想・評価

ヘアピン・サーカス(1972年製作の映画)
3.0
「ヘアピン・サーカス」

冒頭、公道を走る黄色い車。ジャズが流れ、カメラは道路をエンジン音と共に捉える。自動車教習所、ライバルの事故死、バトル、若者、夜のハイウェイ。今、日本が誇る車が登場する…本作は東宝配給の一九七二年に西村潔監督が原作、五木寛之の"四月の海賊たち"の中に挿入されてる同名の短篇小説を見崎清志と言う二十六歳のトヨタ専属の現役ドライバーを主演に迎え撮ったカーアクションで、この度キングレコードからBDが発売され、初鑑賞したが面白い。本作はアメリカンニューシネマと同時代に登場した、極東ニューシネマと言われる鮮烈な一作として有名だそうだ。車に関して嘘は描かないと、信念のもと制作された本作は、主役の見崎が当時の現役レーサーをキャストに起用し、チームトヨタで活躍した元ワークスドライバー大坪がスタッフで参加しているそうだ。実際のマカオグランプリで撮影されたレースシーン、名車トヨタ2000 GTとサバンナRx-3のカーチェイスなどハリウッドにも引けを取らない国産カークションの最高傑作と断言できる迫力とリアリティーがあると記載されており、いざ観てみるとまんまそうであった。やはり本作は日本ジャズ界屈指の菊池がサウンドトラックを手がけているのが何より幸福だろう。映像とは程遠い音楽の専門が映像に与えた素晴らしいジャズは冒頭の件から最高である。

さて、物語は何者かに反発して夜の公道を突っ走る若者たち、凄まじいスピードの中で絡み合う愛に飢えた二台の車、そして轟音を奏でるエクゾーストノートとぶつかり合う豪華なるシネジャズ。ライバルを事故死きっかけにレースから去った島尾は、自動車教習所で働いていた。そんな中、彼は公道でバトルを仕掛ける若者を目撃する。本作は冒頭に、不気味な音楽と共に戦闘機の使われた年代(戦争)の解説が文章として現れる。そしてファースト・ショットは、公道を走る車のエンジン音とともにカメラが道を捉える。そこにジャズの音楽が鳴り響く…と簡単に冒頭を説明するとこんな感じで、案外物静かな映画で、しかしながら終始ジャズの音楽が画面を支配する。美しいスポーツカーが雪の上をスピンするスローモーション撮影や、長回し、荒れ狂う海とのコラボレーション、車内のカット割り、れレース、事故大破、静止画の繰り返しは実験的であって良かった。地味なんだけどかっこいい演出があり、所々しびれてしまう(ニヤリとする場面がある)。
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