朝田

勝手にしやがれ!! 英雄計画の朝田のレビュー・感想・評価

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これはヤバかった。黒沢清ベストの一本。シリーズの中でもダントツの出来だと思うし、前作以上にVシネマの枠組みを破壊しにかかってる。相米もエドワード・ヤンもペキンパーもゴダールもスピルバーグも全部一作に共存しており、その豊潤な映画史の記憶がアナーキーなストーリーテリングを破綻ギリギリで成立させているという、まさに世界で黒沢清にしか撮れない映画。いつものVシネマ調で進んでいくが中盤から一気にディストピアSF化していくあまりにカオスな展開。ミニマルな舞台でありながら、黒沢作品お馴染みの廃墟の配置や絶妙なロケーションが近未来的な世界を巧妙に見せる。その景色を捉える圧倒的な長回し。そんな、キュアロン「トゥモローワールド」を予見するような画面を作っていた90年代の黒沢清は本当に冴えまくっている。この美しい長回しは他の同世代の日本の作家には誰も撮れない。テーマとしても後の「回路」、「散歩する侵略者」に繋がるような、人物たちが「ここではないどこか」を目指すというテーマも既にこの段階で描かれており、色々な意味で作家としての方向性がクリアになった、ターニングポイント的な一作であると思う。廃墟と同じくらい代名詞である揺れるカーテンと、それを見つめる洞口依子のあまりに完璧なラストカット。今までどういう気持ちになったら良いのか判らず苦笑いするしかなかった「森のくまさん」に泣けてくる。黒沢作品の要素が全部詰め込まれているようなフィルモグラフィー最重要作品の一本だ。
朝田

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