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八月の鯨のCinemanのレビュー・感想・評価

八月の鯨(1987年製作の映画)
4.0
『八月の鯨』
リンゼイ・アンダーソン監督
1987年公開アメリカ
鑑賞日:2023年2月21日 U-next

1912年から1987年まで75年間活躍した大女優リリアン・ギッシュ。共演者はハリウッドきっての演技女優として“フィルムのファースト・レディ”と呼ばれるベティ・デイビス。

夢の共演です。
そしてリリアン・ギッシュ最後の素敵な作品です。

【Story】
サラ(リリアン・ギッシュ)とリビー(ベティ・デイビス)の姉妹は60年来、夏ごとにメイン州の小さな島にある小さな別荘にやって来ます。
8月になると入江に鯨が来るので、少女の頃から鯨を見に遊びにきていました。

リビーは第一次世界大戦でサラの若い夫が死んだ時にサラの面倒をみましたが、リビーはその後目が不自由になり現在はサラに面倒をみてもらっています。
失明したリビーは常にいらだちを隠さず言葉もきつくワガママ。

そんな姉を元看護婦のサラは優しく見守りながら暮らしています。
別荘には幼馴染みのティシャ、修理工のヨシュア、近くに住むロシア移民のマラノフらが訪ねてきます。
サラは彼等と仲良くしていますがリビーは彼らに対しても皮肉と悪態をつきながら無関心を装い、自分の殻に閉じこもったままです。

入り江に鯨が現れるのを心待ちにしながら5人の淡々とした暑い夏の日が続きます。

【Trivia & Topics】
*岩波ホールの上映。
本作は岩波ホールの創立20周年記念作品1988年にロードショー公開され31週にわたるロングランを記録し、その時のパンフレットで淀川長治が「(この映画は)すばらしい香りに包まれ美しい色にいろどられ人生の思い出としてレースのように手でさわらせる」と絶賛しました。

*黒澤明監督。
「黒澤明が選んだ100本の映画」(文春文庫)に選ばれています。

*逆年齢で姉妹を演じた二人。
撮影当時リリアン・ギッシュは93歳、ベティ・デイヴィスは79歳でしたがベティが姉をリリアンが妹を演じています。

*絶妙なキャスティング
リリアン・ギッシュは無声映画『散りゆく花』で可憐な少女を演じたまんまの可愛らしいお婆さんになり、ベティ・デイビスは『イヴのすべて』『何がジェーンに起こったか?』の強烈な悪女がお婆さんになったようです。対照的な二人のイメージそのままの作品です。

*46回目の結婚記念日。
姉とひともんちゃくあった深夜のこと。
台所のテーブルに何十年も前に亡くなった夫の写真を飾りローソクに火をともしワインを注いで「46回目の記念よ」と語りかけるリリアン・ギッシュの可憐さと可愛らしさが素敵でした。

*リビーの名セリフ。
人生の半分はトラブルで、あとの半分はそれを乗り越えるためにある。

*1987年第40回カンヌ国際映画祭特別招待作品です。

【5 star rating】
☆☆☆☆

病気のはなし、補聴器のはなし、遠い昔の思い出ばなし、ぐち、知り合いが亡くなったはなしなど老人特有の会話には身につまされます。

目の前に入り江があり大海が広がる岬の突端に50年前にたった一軒だけ建てられた小ぶりな別荘で、海の彼方から日が昇りそして日が沈む美しい自然に囲まれて静かに暮らす。
これほど贅沢な余生はありませんね。
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