みかんぼうや

八月の鯨のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

八月の鯨(1987年製作の映画)
3.5
ある島の水辺の家に住む、人生晩年期を迎える老姉妹が、それまでの人生を振り返りながらこれからを見つめるお話。主役の2人以外も登場人物も男女ともにほぼ高齢者。美しい水辺の家の老人、という設定から「黄昏」のような作品を想像していたが(あちらは老夫婦だが)、全く別物。個人的にはあちらのほうがより“家族の繋がり”にフォーカスした印象であるのに対して、本作は実はより“人生晩年の現実”を直視した作品に見えた。

何しろオープニングが若き日たちの登場人物たちから始まるかなり爽やかな入りなので、全体的にポップな作品かと思いきや、そこで描かれるのは老老介護であったり、老後の居住地の問題であったり、1987年のアメリカ作品でありながら、今の日本の高齢化社会問題にも通ずるような意外なほど生々しい内容。ただし、その問題にフォーカスした悲観的な作品ではなく、高齢者たちの昔を懐かしみながら繰り広げられるちょっとしたユニークな会話を楽しむ姿も作品の主軸になっているので、決して重さがあるわけではなく、会話劇としての面白さもある作品。

ただ、正直なところ、この作品はあと10年、いや20年経ってから観たほうがその味を深く楽しめる作品だろうと思う。祖父や祖母を見たり介護した経験があるとはいえ、やはり当人としての感覚はまだまだ足りず、言いたいことは分かるものの、登場人物の心境に共感したり入り込むにはまだ早すぎたのが正直なところ。

それ故に、10年後、20年後に観た時に自分の受け取り方がどのように変化しているかが大変興味深くもある。

最後に、本作を語るうえで絶対に欠かすことができないのは主人公の姉妹を演じたベティ・デイヴィスとリリアン・ギッシュ。撮影時の2人の年齢は79歳となんと93歳!この二人の人生とキャリアの厚みがあるからこそ、この高齢姉妹の感覚や関係を極めてナチュラルに演じられたのだと思う。ベティ・デイヴィスといえば、私の中では「何がジェーンに起ったか?」の印象があまりにも強すぎるのだが、本作では可愛げのあるおばあちゃん役で、勝手ながらだいぶ印象が変わりました。
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