TP

赤ひげのTPのレビュー・感想・評価

赤ひげ(1965年製作の映画)
4.9
★1989年に続き、2回目、初めての映画館観賞★

 山本周五郎の8編の短編からなる「赤ひげ診療譚」のいくつかの挿話を組み合わせて一つのストーリーとし、撮影に1年半をかけた黒澤明入魂の1作。本作での凝り方が癖になったか、以降は1作/5年という寡作の監督になる。
 山本周五郎の原作は短編集という趣が強かったが、本作では赤ひげという魅力ある人物を主軸に、青年保本と精神を病んだ少女おとよの成長物語を絡ませるという一本大きな筋が通っていることで、より求心力のある全体像となっている。

 1回目の鑑賞時の印象として、赤ひげは強面の外観から偏屈な頑固おやじと思っていたが、独裁的なところはあるにしても実は最初っから人の気持ちを慮り、照れ屋の一面もある、という描かれ方をしていて、男気があって喧嘩も強く、さらにユーモアもあり、それを三船敏郎が絶妙に演じていて非常に魅力的。
 また、一本気で内面は素直な保本を演じた加山雄三も役にぴったり合っているし、その両親を演じる笠智衆と田中絹代、娼婦宿のおかみ杉村春子や狂女の香川京子、病人の山崎努、藤原釜足、左卜全などなど、錚々たる顔ぶれの俳優陣がそれぞれの出番で盤石の演技を見せていて演技・演出面で一分の隙もない。
 特に本作では女優の使い方が秀でており、上述の主演級のみならず、保本の元許嫁・婚約者となる姉妹や診療所で働く4人のおばさん連なども印象的だ。
 撮影当時15歳と9歳だった二木てるみと頭師佳孝が素晴らしく、彼らの演技も相まって最後のエピソードは涙なくして観られない。(ちなみに頭師佳孝は次作「どですかでん」で主役に抜擢されるのだが、当時14歳だったとは信じがたい演技を見せる)

 内容的にはかなり悲惨なエピソードが多く、そこで描かれる人間が自身の内面に潜ませる苦労や悲哀の凄惨さ、それに反するようにその凄惨を優しく包み込もうとする赤ひげの優しさなどを通じた映画全体としての姿勢、そこに絶妙な嫌みのないユーモアもちりばめて、すべての人間感情のてんこ盛り。
 またその凝りに凝った製作姿勢によって、光の加減、画面構成、セットの質感などすべてにおいて最高品質の映像芸術となっていて、それが信じがたいことに3時間持続するという離れ業。いやもう、まごうことなき名作という形容以外ない。

 若干の減点は、本作当たりから観られる大仰な演技が少し気になるところ。この点は外国資本だった「デルス・ウザーラ」(75)では一旦落ち着くが「影武者」(80)以降は明らかな違和感を感じるようになる。
TP

TP