荒野の狼

劇場版 超・仮面ライダー電王&ディケイド NEOジェネレーションズ 鬼ヶ島の戦艦の荒野の狼のレビュー・感想・評価

3.0
2009年に公開の映画で、この時期TVでは「仮面ライダーディケイド」が放送中であったため、同シリーズのレギュラーも10分ほどは登場するが重要性はない。世界観は「仮面ライダー電王」で、TVシリーズの主だったレギュラー(佐藤健以外)が出演しているが、主役は11歳の少年ユウ。東京より田舎に引っ越してきたユウは、田舎の暮らしになじめず、亡くした母を懐かしむ毎日であるのだが、室町時代の鬼がタイムスリップする事件に巻き込まれる中で成長していく。本来、子供がターゲットのライダーシリーズの王道を行く少年が主人公という設定はよく、主役の繊細な美少年を好演した沢木ルカは、女優であるので、少女・少年の両方から共感を得られるポテンシャルの高さ。映画のゲストは南明奈が室町時代の村人のリーダーの戦士。南に母親の面影を追う沢木という設定で、二人の演技の息もあっている。

タイムスリップする前に、室町時代の鬼退治の浮世絵の中に、電王のレギュラーであるモモタロスが描かれるように歴史が改変されていたというシーンは面白いが、この場面は一瞬でフォローがないのが残念。映画のストーリーは、歪んだ歴史をライダーがいかに修正するかということなので、修正後に浮世絵がどうなったかが示せれば、うまい伏線になっただけに惜しい。なお、浮世絵にライダーが描かれて、歴史のゆがみが示される場面は、2019年の映画「劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer」にも登場し、こちらでは長篠合戦図屏風に、歴史が変わって仮面ライダー・ゲイツが描かれるというもので、改変された浮世絵というシーンに限っては本作より上。

敵役の鬼は、 柳沢慎吾と篠井英介が演じているが、鬼の怪人の造形が仮面ライダーに似ており、中盤まではふたりともライダーをはるかに凌ぐ戦闘能力なのだが、戦いの中で理由なく弱くなってしまう流れは、戦闘場面の脚本の弱さ。他にも、本作の展開であれば、期待された主役の沢木の変身や、冒頭にピクセル化された亡き母の顔のピクセルの消去、などはない点などが脚本の弱点。

鬼がどういう存在であったのか、深く描かれることがなかった本作であるが、個性的な二人の俳優を使っていただけに、村人との対立が何故起こったかなどが設定されていれば、物語にメッセージ性を加えることはできたはず。篠井はライダーとの対決の中で、「負けた方が鬼なのだ。それが歴史だ」というセリフを吐くが、最初から最後まで、鬼側に正義のない設定なので、このセリフは意味が弱いものになってしまった。
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