Ricola

偽大学生のRicolaのレビュー・感想・評価

偽大学生(1960年製作の映画)
4.0
何が悪なのか。そんな単純な話ではない。
皆が体裁やプライドなど気にして自分だけを守ろうとする。何かを悪と決めつけることが、自己を守り抜こうとするのに最も簡単ではあるが、正義を見失ってしまい人としての道を外れてしまいかねない。
それはまさに世界大戦で経験したことなのではないか。人の生命よりも国家を守ることに必死になっていた、先の戦争のときのように。

名門大学の受験に何度も失敗している主人公の大津は、母親の期待にこたえるために嘘をついて大学生のフリをする。
偶然にも彼は学生運動急進派の学生たちと関わることになる。憧れのキャンパスライフの実現に主人公は浮かれていたのもつかの間だった…。


ショットの中央に人物の後頭部が置かれるショットが多い。
大津が責められているとき、警察の取り調べを受けているときや、船越英二演じる先生が他の先生と話しているときなどにこの構図がとられる。
その構図だからといって毎回同じような効果がもたらされているわけでもない。
ショットの隅にいる人たちひとりひとりの顔がしっかり見せる意図がある場合や、中央にいる人物がどういった状況に置かれているかを把握するショットであったりする。いずれにせよ、ショット中央に「全てが見えない」人物が置かれていることに共通している。

若尾文子が悩み苦しむ表情がよく収められる。彼女がほぼ唯一の救いの存在なのである。この混沌とした世の中で、皆自分のことで精一杯で人として最も大切なことを忘れているなかで、彼女は葛藤し続ける。
彼女が葛藤する際にはだいたい頭を垂れている。前を見据えている他の者たちの中にポツンとひとりいるそんな彼女は、より異質な存在に見える。

誰がおかしいのか。彼ひとりがそうなのではない。皆おかしいのである。
Ricola

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