溝口健二に駄作なし。
けれどこの平忠盛〜清盛・親子を中心にした歴史物語の映画化は、ちょっと苦労した痕も見受けられる。
歴史的にはこの後、もっと力を持っていく武士たちのその直前の息吹みたいなものをさらっと描いている。
この作品の前年、映画界にデビューした若き日の市川雷蔵が清盛の役を初々しくも後年にはない勢いみたいなもので演じきっているのが興味深い。
忠盛の、親としての… 夫しての… 平家を取りまとめる長としての… 天皇に使える者としての… いろんな立場での葛藤が繊細に描かれているところは見応えがある。
しかし、木暮美千代演じる清盛の母・泰子を、いつもの溝口健二ならばもう少し粘着的に… 且つ奥行きのある実物像として描いているような気がする。
(たとえば小津作品での木暮美千代はもっと奥深い演技をしている。)
平家といえども、親と子、夫と妻、主君と家臣… それぞれの関係で一筋縄ではいかない思いが絡み合う。
いつの世でも… 愛憎まみれる人間関係というのは、マッチの消し損じ程度から始まっても、すべてを飲み込むような猛炎にまでなってしまうような危うさがあるものだと思った次第。