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白い巨塔のTnTのネタバレレビュー・内容・結末

白い巨塔(1966年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

 山崎豊子原作小説の映画化作品。フィクションながらにその細部の真実味に凄みがある。冒頭でタイトルクレジットと共に見せつけられる開腹手術のシーンは、実際の手術である。その強烈さを人間の”腹黒さ”が上回るのだから恐ろしい。そして、少し前ネットで話題になった医療漫画「竹田くん」が、ほぼ真実に基づいていることと、その内容が今作に勝るとも劣らないのが震える。1960年代のフィクションだった内容が、現代、それも半ば現実に起こっているというこの救いの無さ。今、徐々に業界の膿が出てきて明かされる真実も増えたが(ジャニー喜多川や、「竹田くん」モデルとなった医療過誤など)、それもまだまだごく一部に過ぎないのだろう。また解決にはどこも至っていない。

 増村保造映画に近い金と地位名誉で動く人物像、しかしそこには増村がギリギリ保とうとしていた愛みたいなのが既に微塵も無い。良心はあるが、それを他人に抱こうという希望はない。「羅生門」でさえ、ラストは見ず知らずの者をそれでも信じてみようみたいな力があったはずなのに。今作の策略、いや謀略の手数の多さはもはや天晴と言ってやるべきか。好みを探って相手に押し付け、表立った賄賂に見せない方法。度々開かれる密約と酒と金と女の甘い罠(義父が飲み水でうがいしてはガハガハ笑うシーンの品性下劣さよ)。平然と義父が息子の浮気を促す。自分の地位を揺さぶられまいと尻尾きり。脅迫さえ厭わない。人の命さえ関係ない…。あるのは個人主義。主人公の動機も母への恩返しではあったが、回想シーンで出たっきり特に出番もなく。彼の止まらぬ”野心”だけが彼の動機であったのだ。映画ラストで回診のため行列(「大名行列やで!」)をなす先頭で眼光ギラつかせて歩く主人公に、全てがある。 

 唯一の良心である里見も、ある意味強い正義で動く人間ではなく、単に自身の良心に従うまでなので、そういった点では彼もまた個人主義的ではある。彼らの闘争に関われば悪だが、関わらないこともまた愚かか。かといって積極的介入はおそらく「悪い奴ほどよく眠る」のあの胸糞さを引き起こす。

 また、今作の恐ろしいのはその主演をした俳優、田宮二郎を本当に狂わせてしまったからだ。それはオカルティックな意味合いではなく、主人公の野心と俳優としての野心が見事合致したことから生まれたものだと思われる。あまりにも役と境遇が似ていたか。のちに彼は、今作ではないのだがポスターでの自分の描かれ方の順列が一番でないことを抗議したり、また今作のドラマ化で自身の演ずる役が嫌われるようになるのを拒み脚本の修正を要請したりと、まるで振る舞いは今作の主人公のようだ。ちなみに「白い巨塔」ドラマ版では彼は同じ役を続投、精神を病みながら、死に伏せる主人公を俳優自身もすれすれで演じきった。その後、拳銃自殺、このドラマが遺作となった。蛇足だが、この田宮二郎の顔がまた、自殺を主題とした映画「鬼火」のモーリス・ロネ似なのである。

https://ameblo.jp/iryoukago/entry-12802350602.html
 こちらは「竹田くん」が元とした病院で、実際に医療過誤によって苦しんでいる方のブログです。現在は無事退院できたそうですが、担当医(過失医)との和解は未だ出来ていないとのことです。
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