まりぃくりすてぃ

不完全なふたりのまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

不完全なふたり(2005年製作の映画)
5.0
西洋人は美醜にかかわらず絵になる。そのアドバンテージを慎重に存分に日本人が生かした“大人の映画”の、これは一つの教科書。(もちろん国籍云々にかかわらず秀作成分が人を悦ばせる。)

結婚への日々がそうであったように、離婚へのプレリュードもまた優しき配慮と正しき尊重(いっそ愛)に満ちていてほしいと欲する妻の側。でも、配慮尊重が十全にあれば離婚なんぞしないわけであって、求めてしまう彼女が不利。不利ゆえに悪役っぽく狂気さえ孕む彼女(ホテルでのしつこい恨み節シーン)に、私はついていけなかった。
が、危うさはやがてリアリズムに吸い込まれていった。

撮影者シャンプティエの信念に拠(よ)ったのか、サイレント時代とも現代とも一線を画した“暗がり映画”づくり。
単に暗いばかりではないのがポイント。過去作『M/OTHER』の失敗(面倒臭いから闇にしてみた、という愚かさ)を、指示者の諏訪監督は繰り返してはいない。つまり1C(モノクロ)と4C(フルカラー)との間(あわい)を行く2C(二色刷り)のぼんやりな視界にこそ、せっぱつまった者たちの侘しき実存を詰め込める、と今回は主体的に狙ったのだ。
生命力と調和の象徴である鮮やかな緑はまず出てこない。赤のある時には青か黄が身を潜める。全体がトーン抑えぎみな上に、原色を同時に三つ以上は出てこさせない。冒頭の信号機をめぐる小粋な台詞「赤よ。停まらないの?」「濃い黄色さ」は、そうした色彩統制の明確な宣言だったわけだ。
その上で、“キタノブルー”ならぬ“スワレッド(スワルージュ)”を全色彩の中で最上位に置くべくして置く諏訪監督の美学は、青よりも赤をというパーティードレスの選択(と「赤を映えさせる青の靴が見つからないわ」)に顕著に表れている。魅力。
 
「中だるみ」はないのだが、特に起伏もない。「中たるまず」ともいうべき飽きさせない穏やかさが映画を運びつづける。
そして、ドラマティックとリアリスティックが完璧に和合するラストシーン! 泣こうと思えばここで私は泣けた。気に入るか遠ざけるかの自由を“大人の秀作”は小さな笑い声とともに与えてくれて、この整然さを私は抱き寄せることに決めた。