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不完全なふたりの海のレビュー・感想・評価

不完全なふたり(2005年製作の映画)
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去年のお盆休み、長崎までふらっと旅をして、中華街を歩いていた時だった。四人兄弟がおばあちゃんと一緒にわたしの前を歩いていて、一番上のお兄ちゃんだけ中学生くらいで、下の子たちはみんな小さかった。そのうちの一人が「中国の人が、中華街にきて、なにするの?」って大きな声で言って、お兄ちゃんが、「なつかしむんだよ」と返した。うんと優しい声だった。そういう景色。誰も記憶しようとしないかもしれない景色、ことば、声の調子。自分が覚えておきたい、って、思い出の中にぎゅっと詰め込んでしまうこと。夜中の喫茶店で。夜明けの街で。駅のホームで。今わたしの頬が熱いのは、嬉しいからなんだと思う。そこに愛する人の怒った顔や、苛々した様子や、息がかかるくらいそばで聴いた世界で一番小さな声の震えを、両手の指で結びつけてしまったのなら、わたしは、感動する。100分間も続いた夫婦喧嘩のために、泣いてもいいって思ってるよ。あなたが素敵なら素敵なほど好きだし、あなたがどうしようもなくダメなひとならどうしようもなくダメなほどやっぱり好きだ。
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