ジェイコブ

エンター・ザ・ボイドのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

エンター・ザ・ボイド(2009年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

幼い頃両親を車の事故で亡くし、妹のリンダと二人で東京に住んでいるオスカー。両親を亡くして悲しむリンダにした、一生側から離れないという約束を胸に、ドラッグのディーラーで生計を立てていた彼は、ある日親友のビクターに裏切りに遭い、警察に売られてしまう。抵抗するオスカーは警察に撃たれた事が原因で死んでましまうが、彼の魂は肉体を離れ、東京の空を彷徨うことに。死後のオスカーが見たのは、彼のこれまでの人生と、悲しみに暮れる妹の姿だった……。
フランス映画の鬼才ギャスパー・ノエ監督作品。多彩な映像表現と、監督の十八番と言える長回し、内容は複雑に見えて実は伝えたいメッセージはシンプルであるなど、ギャスパー・ノエを全身に感じられる本作。
ドラッグはその人だけでなく、その人と関わった周りの人の人生までも狂わせる。本作では、オスカーは亡き母の夢である東京に住み、妹と一緒にいるという約束を果たすため、金を稼ぐ必要があった。彼はドラッグのディーラーとなり、大金を稼ぐことに成功し、妹を東京に呼んで同居するという夢も叶える。しかしオスカーは念願叶った生活を手に入れたにも関わらず、側にいて守ってやらなければならないはずのリンダを危険に晒し、自ら幸せを壊した。
他に選択肢はあったはずなのに、彼はドラッグと関わることを止めなかった。オスカーの心には何より、ドラッグと関わっている時の自分は強くあり、何者かでいられると酔っていた事が大きいだろう。その根底には、目の前で両親が死んで泣きわめく妹に何もしてやれなかったこと、別々の児童養護施設へ引き取られる事となり、自分と離れたくないと泣き叫ぶ妹をただ黙って見送るしか出来なかった過去など、彼が幼い頃に感じた無力な自分に戻りたくないという気持ちがあると思われる。
彼は自分自身が「無」であり、自分のやった事の結果を死んだあとに思い知らされることとなる。しかし、彼は同時に生まれ変われるという事も知る。オスカーはリンダの身体に入り、彼女の子供として輪廻転生をする。ラブホテルの中でセックスをするカップルの秘部が光っていたのは、これから誕生する新たな希望の象徴であり、道を踏み外したオスカーが飛び込めるあらゆる可能性の数々である。
新宿を舞台にしたという事、石焼き芋のインパクトが中々強かったのも印象的。ただ、非常に映像酔いしやすい作品であるため、体調の良い時に見た方が良いのは確か笑。