ハル

木洩れ日の家でのハルのレビュー・感想・評価

木洩れ日の家で(2007年製作の映画)
4.0

舞台はポーランド。深い木立に覆われて一軒の古いあばら屋が建っている。その年期の入った外観もさることながら、屋内は光と影が絶妙なコントラストを成しており、老人と愛犬がひっそりと暮らすにはちょうど良い。91歳になる主人公の老婆はこの家を終の棲み家として余生を送るつもりでいるが、周囲の人間に静寂を掻き乱され、気の落ち着くところがない。成長した息子などは自分に相談もなく勝手に家の売却を進めようとしており、寄る辺とすべきこの場所もいずれは人の手に渡る運命にあった。一計を案じた彼女は、ある決断に踏み切るのだった。

芸歴80年を超えるベテラン女優を起用してのヒューマンドラマ。終の棲み家を守らんと奮闘する老女の、微笑ましくも健気な姿は、心地良い余韻とともに大事な何かを教えてくれる。人生にとって本当に大事なことは何なのか、それは人によって様々で、その答えに永遠に気づかないこともままあるが、この作品は、少なくとも、それを考えるためのきっかけにはなる。敢えてモノクロ映像にしたのは、ただ人物の肌の質感や空間の陰翳を際立たせるためだけではなく、伝えるべきテーマをより伝えやすく考慮したためではなかったかと思う。事実、あの白と黒が織り成す映像美は、老婆の静かな独白や、あのラストの余韻を印象づけるために欠かせない、見事な演出であった。
ハル

ハル