デニロ

われに撃つ用意あり READY TO SHOOTのデニロのレビュー・感想・評価

3.5
1990年製作公開。原作佐々木譲。脚色丸内敏治。監督若松孝二。

2023年。新宿歌舞伎町を歩くと小さい子連れの外国人旅行者が数多く見受けられる。え、一体全体歌舞伎町に子どもに見せる何があるというのだろうか。いや、あの子どもたちを売り飛ばすんじゃなかろうかと心配になる。

1990年頃、蛇頭という中国人密入国ブローカーが暗躍。何が悲しくて日本なんかに密入国するんだろうと思っていたものですが、同時にチャイナマフィア、香港マフィア。台湾マフィアなんかがジャパンマネーに群がって来たのでした。その頃の歌舞伎町はあんまり入り込みたくない地域になっていた。本作でも室田日出夫香港マフィアが日本のやくざと結びついているシーンがあります。

1990年。新宿歌舞伎町。明日は閉店となるスナック。ベトナムからの違法入国者の女子ルー・シュウリンが逃げ込んでくる。昼間から歌舞伎町はやくざがのっぴきならぬ様子でうろつきまわっている。どうやら何らかの理由で彼らに追われているようだ。マスターの原田芳雄はそんな事情を察し匿う。

そんな話に、スナックの常連の与太話が絡む。原田同様、かつては全共闘の闘士で云々の連中。石橋蓮司、山口美也子、小倉一郎、斉藤洋介、西岡徳馬、桃井かおり。多分に戯画化されて取り扱われている。作者たちの批評なのだろうか。対比されるディープキッスの若者カップルもかなりのとんちんかんに描かれているけれど。出演作で何らかの痕跡を残したいこの役者たちがスナックの中で繰り広げる会話はほとんどアドリブじゃないだろうか。

時折、彼らの時代1969年10月21日国際反戦デー、新宿駅での学生、労働者の活動家、市民の映像が挿入される。炎上する車両、投石、ジグザグデモ。やけにモヒカンが目立っていたけれど、誰かのリクエストだろうか。

ルー・シュウリンにくぎ付けになったわたしには、それらのあれこれはどーでもいいのです。離れ離れの兄を思うルー・シュウリンの健気なこころに、というよりもルー・シュウリンそのものにこころ惹かれてしまって、このどーでもいいストーリーはわたしのこころから消え失せてしまうのです。

仕事柄中国人やベトナム人とお付き合いがありますが、日本にいる中国人、ベトナム人は母国の政治体制を由としておりません。こんなに息苦しい日本でも母国よりはましなのだそうです。そんな彼ら、数年前までは家族のために遠い異国の地に自分を捨てて働きに来ていたのですが、最近は気質も変わってきて、ルー・シュウリンのような健気な思いは伝わってきません。最初から犯罪目的や失そう、転職目的で入国する輩もおります。意味不明の労働力不足に乗じて外国人労働者を増やそうとしていますが政治家任せにしているととんでもないことになるような気がします。こころしておきましょう。

ルー・シュウリンの、♬I shot the sheriff.But I didn't shoot no deputy♬、そんな物語。

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