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寝ずの番のdaiyuukiのレビュー・感想・評価

寝ずの番(2006年製作の映画)
4.3
上方落語界の重鎮・笑満亭橋鶴(長門裕之)が亡くなった。今わの際、「外が見たい」と言ったのを、一番弟子の橋次(笹野高史)が「そそが見たい」と勘違いした為に、橋太(中井貴一)の妻・茂子(木村佳乃)が恥を忍んで自分のおそそ=女性器を見せた、3分後のことだった。
そんなそそっかしい一門であるから、通夜の晩は無礼講。生前の師匠の様々な逸話で盛り上がり、遂には亡き骸を引っ張り上げて落語『らくだ』の“カンカン踊り”まで出る始末であった。
それから暫くして、橋次が亡くなった。通夜の晩、想い出話に花が咲く。験の悪さと言ったら群を抜いていた橋次。お寺さんを借りての独演会では、行く先々で、本堂が火事になったり、住職が亡くなったり……とついてない。だが、たった一度だけ、艶っぽいお姉さん(高岡早紀)との一夜も、あることにはあった。
一年後、今度は橋鶴師匠の妻・志津子ねえさん(富司純子)が亡くなった。通夜の晩、かつて今里新地の一番人気の芸妓だった志津子ねえさんの弔問に、鉄工所の元社長だと言う初老の男がやって来た。果たしてこの男、師匠とねえさんを争った恋敵で、霊前にねえさんから教わった座敷歌を捧げたいと言い出した。ところが、その歌がエッチで洒落ていたことから、そのうち橋太が負けじと歌い出し、終いにゃみんなで歌合戦、となるのであった。
中島らもの同名小説を、津川雅彦がマキノ雅彦名義で監督し映画化。
落語は、人間の有り様を不謹慎ギリギリまで攻めて可笑しみを表現する芸能。だから、己の芸を跳ねさせるために、噺家は酒や女などの遊びを無茶なまでにして自分の引き出しを広げていこうとする。
そんな噺家の通夜の晩は、一般人に理解出来ないほど、破天荒に遊びを極めることになる。
この映画は、そんな噺家の通夜の晩の話。
酒の上での失敗談や師匠のお供で弟子たちがハワイに旅行に行った時の失敗談やバーで誘惑された女とのとんでもない一夜の話など、古典落語の滑稽噺や艶笑噺そのまんまの可笑しみがある。
師匠の通夜の晩に落語「らくだ」に擬えて弟子たちが師匠の亡骸とカンカン踊りをするシーンや師匠の奥さんの通夜で師匠と奥さんを争った男と師匠の弟子たちが座敷歌の歌合戦をするシーンは、厳粛であるはずの通夜の晩すら徹底的に遊びを尽くして洒落のめす噺家の美学が凝縮された名シーン。
上方落語の重鎮である笑福亭松鶴夫婦と弟子のエピソードを元にしているだけに、当たり外れの多い落語を題材にした映画では、数少ない可笑しみがあるコメディ映画。
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