櫻イミト

国境の町の櫻イミトのレビュー・感想・評価

国境の町(1933年製作の映画)
3.0
脚本家の高橋洋さんがオールタイムベストの一本に挙げていた戦前のロシア映画。スターリン体制下で共産プロパガンダの条件をふまえつつ名作を残したボリス・バルネット監督の代表作。ゴダールやリヴェットが敬愛し、日本では1995年に紹介され蓮実重彦らが称賛した伝説的監督のトーキー第一作。

帝政ロシアのドイツとの国境の町。アパートを営む父娘と軍靴工場を中心に庶民たちの悲喜劇を描く。第一次世界大戦、そしてロシア革命の波が押し寄せる中、若者は次々と前線におくられていた。一方、捕虜として労役に就くドイツ軍兵士の若者とアパートのロシア娘は恋に落ちていくのだが。。。

リアリズム風のタッチで戦下の群像劇が描かれていた。ただ、シナリオが少々取っ散らかっていて物語には入り込みにくかった(自分が群像劇が苦手なこともあるかも)。主軸となるのは戦争や資本家に振り回される労働者たちの描写で全体的に社会派な雰囲気。そんな中で最も印象に残ったのが恋の馴れ初めで娘が尻もちをつくといったコメディ演出だった。

本作がバルネット監督の代表作とされているが、個人的にはサイレントの「帽子箱を持った女」(1927)や、本作に引き続きエレーナ・クジミナがヒロインを演じた「青い青い海」(1935)など、キュートなヒロインによるコメディのほうが監督の才能が発揮されているように感じた。
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