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国境の町のzhenli13のレビュー・感想・評価

国境の町(1933年製作の映画)
4.7
素晴らしかった。いろんなシーンで泣いた。水たまりの家鴨、そして馬、手綱をとる眠そうな男の横顔というショットの連続だけでわくわくするファーストシーン。初トーキーへのテンションの高さからか『香も高きケンタッキー』でも実現しえなかった、馬がアフレコで喋ってるように見せるところもあり、靴工房で汽笛のサラウンドに耳を澄ます職人たちなど、音への執心が見てとれる。劇伴の行進曲?の使い方もとても好いし、下宿人のドイツ人男性が下宿屋主人を呼ぶとき必ず「アレクサンドル・ペトローヴィチ」とフルネームで繰り返すのも好い。

序盤では『帽子箱を持った少女』のような喜劇的な要素もある(しかし仔犬の首がリードで引っ張られて宙吊りになるのは…)が、第一次大戦、ロシア革命と人々が激しく揺さぶられる時代の変遷とともに暗く深く落とし込まれる。国境の町で隣人だった人々が政変とともに憎しみ合う。同時に支配階級のもとで抑圧されてきた労働者たちの蜂起、職人仕事の効率化・機械化も表される。
ナラティブは台詞ではなくあくまで鮮烈なショットとモンタージュ、その編集によってもたらされる。それだけに「いつまで続けるんだ?」と塹壕で呟く老兵士の台詞はとても響く。
爆撃で亡くなった兵士が直していた軍靴を塹壕から投げ捨てると、故郷で靴職人らを牛耳る資産家が床へ軍靴を投げ出すショットにつながる。軍靴は品定めされどんどん床へ投げ出される。爆撃によって亡くなる兵士の死体の山と同期する。
靴職人だった男が軍靴製造工場で大型機械にむかって次々と靴を作っている。そのショットと戦場での機銃掃射のショットが何度もカットバックするシーンでも泣いた。

『青い青い海』でビジュアルが全く好みでなかったエレーナ・クジミナがここでは下宿屋の娘役。いずれにしても『帽子箱を持った少女』のアンナ・ステンといい、女性のストレートかつ奔放な感情表現をバルネットは好んでいたのだろう。
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