あ

国境の町のあのレビュー・感想・評価

国境の町(1933年製作の映画)
4.4
戦地に向かう悲劇を兵士の靴にしてしまうセンスには驚きました。

塹壕の外に靴を放り投げると工房の床に落ち、職人が積み上げられた靴の山にまた靴を放り投げると、戦場で爆発が起こる。そして工場の機械音は機関銃の乱射に同期していく。たったこれだけの流れを見るだけで、下々の民は前線銃後関係なくいつも国境に立たされているという意味での「国境の町」なのかと思わされます。プロパガンダ要素も勿論ありますが、むしろその要素がとってつけたように見えるほど本体がしっかりしていた印象です。
国で括ると憎く見える隣人同士を兵士の靴で繋いだ物語は、多少の分かりやすいボリシェヴィキ上げも霞んで見えるようにしてしまいました。

人物描写が希薄で、銃後の日常を描ききれていなかったようにも思いますが、むしろそうした人々の匿名性が花開いていたのが、戦争終結のシーンです。

一人の兵士が制止をもろともせず白旗をあげて塹壕から出てくると、ドイツ軍は銃を撃たない。それを見るや、敵味方関係なく匿名な兵士たちが嬉々として飛び出してくる。このシーンには、顔の見えない一人一人の人間に確実に人格を与えるだけの力強さを感じました。

あとストに紛れて女を口説く兄ちゃん好き。あと犬を雑に扱いすぎなところもどこか憎めない。
あ