三隅炎雄

傷だらけの人生 古い奴でござんすの三隅炎雄のレビュー・感想・評価

4.7
飛田の利権をめぐる任侠映画。関東軍が満州各所に軍の慰安所をつくるため、満州ゴロと憲兵隊を使って密かに飛田新地から娼婦を集めようとする。これにやくざの縄張り争いが絡んで血の雨が降るのだが、対立関係にある兄弟鶴田浩二・若山富三郎にしろ誰にしろ、登場する男たちが皆、飛田で働く女たちのことは一顧だにしないまま、その利権のためにいがみ合い殺し合っていくさまに慄然とする。鶴田・若山兄弟は貧しさの中で死んでいった母の思い出には涙しても、今そこにいる娼婦たちの現実には最後まで興味を示さない。任侠映画がよくやるやくざ者と娼婦の悲劇を思い入れたっぷりに描くということが、この映画にはない。
ラストの殴り込みは満州ゴロ・憲兵隊・やくざを巻き込んで、飛田新地が籠釣瓶の吉原のように見える。ただしそこに女はいない。男たちの閉じられた狂った世界だけがある。映画は着流し任侠映画の様式で進行していくが、話が進めば進むほど「女たちの不在」に心が冷えていく、そんな反任侠反ヤクザ映画の傑作だ。一作目を見ていると映画が何を言おうとしているかわかりやすい。
三隅炎雄

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