茶一郎

BORDER LINEの茶一郎のレビュー・感想・評価

BORDER LINE(2002年製作の映画)
3.7
「犯罪者ってだけで一括りにしやがって」

 『悪人』ひいては李相日監督作の起源はココだった!?
 ザラついた質感と茶色い画面。今作は、李相日監督が映像学校卒業制作作品『青 chong』で獲得したPFFスカラーシップで制作した作品。
子供、親、そして体は大人になっても自転車を上手くこげない、人生の進み方が分からないオトナ。父親を殺した少年の逃亡劇と、それにまつわる人々たち、そこに若者の親視点が交わるノワール調の群像劇は、よく飲み屋で聞く「最近の若者はダメだな〜」というボヤキをぶん殴る映画だった。

『悪人』と同じく、全員が悪いし、全員悪くない世界。生き方が不器用なだけで巻き込まれ、巻き込み。心の痛みが止まらない痛々しさだった。
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 今作を見て、李監督が映画で描きたいことは、作品が群像劇であるが故に導入される多数の登場人物の「視点」なのだと気付いた。視点が交わって発展するその先というより、その「視点」そのものだ。レッテル貼りをして、簡単に「悪人」を「悪人」と呼んでしまう奴に、もっと色々な側面から見た「視点」を身につけろ、想像力を養え、文脈を見ろ、と言っているように見えた。

 今作では、どの時代もあるであろう「若者への不満」、若者の犯罪、いじめ、それに対して「若者」に対して批判の目を向ける社会での当の本人である若者、その周り、そしてやや強引に若者の親の視点が導入されることで、より上述のメッセージが強調されている。ちなみに、今作で母親の話は本筋と直接的に関係ないものの、独立してストーリーが存在しているので、『悪人』に見られた後半の失速感を補うようなストーリー的な役割を感じた。というより、この母親の話が最も痛々しくて、実は一番面白いのではないかと思ってしまう。

 相も変わらず、一番大事なことを「言葉で言ってしまう病」は顕在の一方、荒削りな乾いたルックが魅力的。おそらく職業監督に徹したと思われる『69』や『フラガール』を除いて、監督作に通じる全てが詰まった一本であることは間違いなく、監督をリアルタイムで追うには必見の作品です。
茶一郎

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