近本光司

驟雨の近本光司のレビュー・感想・評価

驟雨(1956年製作の映画)
4.0
成瀬らしさが凝縮された逸品。生活のひとつひとつの機微が短いショットの連続で軽やかに活写されていくことで、夫婦として過ごした時間の厚みが立ち上がってくる。湯呑に茶を注いで、割り箸を割って、立ち上がって、振り向いてといった、こまやかな所作の生起するタイミングの巧みさに唖然とさせられる。
 とくに姪っ子である香川京子が家に訪れるシークエンスの充実たるや、昂奮を抑えることができなかった。三人それぞれの心情が刻一刻と変化するさまが手に取るようにわかる。新婚の香川京子が並び立てる夫への愚痴に、原節子の結婚生活の不満が重ね合わされ、亭主関白な佐野周二との対立に至るまでのくだりの鮮やかさ(いわゆるシスターフッドの芽生え)。
 茶の間を舞台にした会話劇を中心とする前半に比べ(浴衣に着替えて縁側にいく佐野周二が引き摺っていたネクタイを原節子が拾って夫を一瞥するショットの雄弁なこと!)、後半はやや弛緩した印象を与えるのが玉に瑕。夫と仲睦まじげな写真が添えられた香川京子の手紙といい、最後の中庭の紙風船といい、なにも根本的な解決に至っていないのに、ナアナアでほっこりさせられる感じ。
 しかしここでもイヤーな感じの近所のマダムを演じていた中北千枝子の「そうざんすねえ」という言い方が耳から離れない。ギャグかどうかかなりきわどい。