ねぎおSTOPWAR

ベロニカは死ぬことにしたのねぎおSTOPWARのネタバレレビュー・内容・結末

ベロニカは死ぬことにした(2005年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

カフカの小説でも読み終わった感じ。余韻のある映画でした。
・・しっかしみなさんの異常な低評価!

原作を読んでいないので何とも言えないところもありますが、他人、社会との関わりの中での自我の崩壊、葛藤という、いかにも文学的なテーマを映画にしていると思います。
だから精神病院、様々な病気は精神世界の象徴で、リアルな病気の映画じゃないと思うんだよなあ。だからそこのリアリティ突いても仕方ない。

トワは幼少期の環境から、父性を求める方向ではなく、自分を閉じ込めて母に従う子になってしまった。しかし本当の自分は成長とともに抑圧に耐えられず、心の奥底からのメッセージがピアノの試験の最中に届いたということでしょう。背後で指差し笑う少女は今の自分への疑問の象徴。
でも尚母の期待に応えられなかった自分を卑下しながら生き、ついに・・。母(多岐川裕美さんというのもオツです)が出てきた際、こうなった理由が思い当たらないのも、トワがいかに隠して生きてきたかということ。
その後トワが語るセックスの思い出はその相似。本当の自分は隠して、感じたフリしてきたという話。ここから一気にセックスの話が表面を覆うので、映画の主題がずれたように感じる向きも仕方ないと思います。しかしながら、周囲の人々との会話から変容し、ついに自分を解き放つのが、真木よう子渾身の演技!ピアノの鍵盤の上でのオナニー!ここ、自分を解放する象徴だと思います。そうでなければ何故クロードがいるのに性行為に及ばないのか?エクスタシーのシャワーなど水が流れるモンタージュ手法はお見事。深読みかもしれませんが、単純にエクスタシー、あるいは潮吹きの表現であればあの川ってもっと激流でいい。なのに清流なのは、トワの心がようやく穏やかに流れ始めた表現なのでは?

ところで院長のブラフのように思われる、トワの命はあと・・という件、肉体の命のことではなく、偽りの中に生きていたトワの寿命のことでは?
自分を解き放ったからあとは幸せというのなら、四つ葉会に入って施設に残る道がある。
ショウコが今一度出ていく決意をしたこと、そして朝日を浴びたトワが海岸を歩き出す決意は同じで、もう一度社会の荒波の中に身を投じる決意ということなのでは?だから院長は渋い表情で彼女たちの将来を心配していたのでしょう。

勝手な解釈を並び立てましたが、私はいい文芸作品だと感じました。真木よう子さんも中嶋朋子さん、荻野目慶子さん(これもすごいキャスティング!)らの演技は素晴らしかったです。

そうそう、クライマックスのシーン、バックにマーラーの交響曲が流れます。この曲好きなんですよねー。これも良かったです。