ひろ

七人の侍のひろのレビュー・感想・評価

七人の侍(1954年製作の映画)
5.0
「世界のクロサワ」こと黒澤明の最高傑作と言われ、日本映画史上最高傑作の呼び声高い1954年の日本映画

ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞受賞作品

スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、マーティン・スコセッシ、北野武など、世界中の有名監督が黒澤明の手法を模倣してきたのは、黒澤明の映画がすでに完成されたものだったからだろう。いつも映画を観たら、減点方式で採点をしてるけど、何も減点する点が見当たらなかった。影響を受けた作品をたくさん観てきたけど、50年代にして完璧な解答を出してしまっている。

207分もの長編だが、ストーリー展開が巧みで飽きがこない。前半で七人の侍を集め、それぞれの個性を描き、戦いの準備を進め、後半で、野武士との決闘を迫力満点に描いている。侍を集めたり、戦の準備をするのを時間をかけて描くことにより、感情移入と緊張感を高めている。

侍の個性の描き方はもちろん素晴らしいが、百姓たちと野武士の描き方、特に百姓の描き方はすごい。ただの弱くて助けを求める百姓というだけでなく、脇役なのに様々な表情を見せている。これにより、侍たちの複雑な立場がより際立っていく。

完璧主義で知られ、天気が気にくわなければ望む天気になるまで待ち、画面に映らないセットまで作らせ、馬は買って映画用に調教するという黒澤監督。雨の合戦のシーンでは、雨に墨汁を混ぜるというこだわり。秋口の設定だが、雪の積もる真冬に撮影してるっていうからびっくりした。雨の中で戦うという表現自体が、かつてない斬新なものだったのもさすがだ。

戦後の日本を代表する俳優ばかりが出演していて、主要キャストは全員亡くなっているが、この人たちは永遠に記憶にも記録にも残るだろう。黒澤作品常連の志村喬演じる島田勘兵衛。七人の侍を率いるリーダーを貫禄たっぷりに演じている。

誰よりも存在感があるのは、黒澤明の相棒と言ってもいい「世界のミフネ」こと三船敏郎演じる菊千代だろう。いまいち頼りないが、喜怒哀楽が激しく変化する様は惹き付けられる。配役を告げられる前から自分の役だと解ったというほどのはまり役。最近はこういう魅力的な俳優は少ない。

木村攻演じる勝四郎の初々しさや恋愛も作品の味わいを増している。個人的には、宮口精二演じる久蔵が好き。宮本武蔵をモチーフにしたという圧倒的強さとさりげない優しさがめちゃくちゃかっこよかった。

ここまで起承転結がしっかりしていて、完璧な日本映画ってほとんどないと思う。50年代の白黒映画だけど、これが日本映画の完成形だっていうのはゆるぎない事実かもしれない。日本人に生まれたからには、これは観ないといけません。
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