櫻イミト

月世界の女の櫻イミトのレビュー・感想・評価

月世界の女(1929年製作の映画)
4.0
ラング監督が「メトロポリス」(1927)「スピオーネ」(1928)に続いて作った世界初の科学的なSF映画。当時最先端のロケット工学に基づくロケット打ち上げシーンはその後の宇宙開発競争に影響を与え、自己犠牲的なストーリーは後の映画に大影響を与えた。ロケット発射のカウントダウンが映画で用いられたのも本作が初めて。

青年実業家ヘリウスは異端の科学者マンフェルト教授と秘かに月ロケットの発射を計画していた。月に金鉱があると推測していたのだ。この計画を知った悪徳実業家が二人の元にスパイのターナーを送り込み、同乗させないとロケットを破壊すると脅す。ロケットにはヘリウスとマンフェルト教授、ターナー、そしてヘリウスのスタッフで婚約したばかりのヴィンデガーとフリーデが乗ることになる。かくしてロケットは月に向け飛び立ったのだが。。。

メリエス監督の「月世界旅行」が1902年。本作が1929年。人類初の月面着陸が1969年・・・と、人類の宇宙観を振り返ってしまった。

月面に酸素と重力がある描写は現在から見たら迷信に過ぎない。しかしそれは全てのSFの宿命であり、SF映画とは人間の空想力を楽しむものだと思っている。本作の大スケールを感じさせるロケット描写は特撮番組「ジャイアントロボ」OPのようなレトロな魅力に満ちている。

また、後にたくさんのSF映画で引用される”自らの意志による自己犠牲の選択”が描かれたのも、本作が映画史上で初めてではないだろうか。その演出も完璧で、実に感動的だった。

169分という長尺の中盤まではロケット発射に至る人間ドラマが続き少々長く感じるが、文化史的にも観ておくべき大重要作。当時のラング監督がいかに天才だったかを再認識する一本。

※「スピオーネ」に引き続きヒロインはゲルダ・マウルスが演じる。個性的で印象に残る女優。
櫻イミト

櫻イミト