りょう

2046のりょうのレビュー・感想・評価

2046(2004年製作の映画)
4.8
 ウォン・カーウァイ監督は、「天使の涙」をリアルタイムで観て、「欲望の翼」からの作品に魅了されてきました。
 この作品は、仕事の出張先で空いた時間に急遽だったので、予備知識もなく観てしまい、「『花様年華』の二番煎じでは?」と思いました。ちゃんとした続編だとわかって観てみたら、「なるほど」という感じで、主人公のチャウの言動や心情が不思議なほど理解できました。うっかりしつつも、いい経験でした。
 プロモーションではチャウが執筆しているSF小説の映像が強調されていたので、監督の新境地かと思いましたが、ある意味でオマケのような印象でした。メインになる1960年代の物語は「欲望の翼」からの系譜がいい意味でそのままなのが心地いいです。
 相変わらずちゃんとした脚本もないまま、現場でセリフを執筆し、ほぼアドリブで俳優たちに演技してもらう撮影だったんだろうなと思わせる作風です。かなり印象的な映像が一瞬だけだったり、編集の過程で物語を創造していったような痕跡があります。チャン・ツィイーの未来の映像ももっとあっただろうに…(もったいない)。
 トニー・レオンが演じたチャウの女性遍歴を描いているだけですが、コン・リー、チャン・ツィイー、フェイ・ウォンの個性的な魅力が相乗効果となって、劇的な展開も何もないのに130分があっという間です。もう少しコン・リーのパートがあれば、「花様年華」でのマギー・チャンとの2つの過去の時間軸で、チャウが女性たちにどんな振るまいをしてきたのか、男性としての解像度が高まったと思います。あらためて観ると、この役柄のコン・リーは若いころの(愁いをまとった)中森明菜さんに似ています。
 ちょっと異質な音楽が妙に映像にマッチするところとか、ばっちりした構図とかも相変わらずで、この作品では“光”と“影”のコントラストが鮮明で、もちろん視覚的にもそうですが、登場人物の比喩にもなっていそうなところが興味深いです。
 どうしてこんな低評価なのかわかりませんが、日本人としては木村拓哉さんの出演に興味が向いてしまい、その役柄とかの印象なのでしょうか…。それはそれとして無関心ではありませんが、やっぱりウォン・カーウァイ監督が演出してトニー・レオンが演じる恋愛の物語には格別の風合いがあります。「マイ・ブルーベリー・ナイツ」と「グランド・マスター」が変化球的な作品でしたが、もう10年以上も新作の話題がないので、ちょっと寂しいです。
りょう

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