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早春のkogureawesomeのレビュー・感想・評価

早春(1956年製作の映画)
5.0
暗い小津映画の一本でテーマ曲も、もの悲しくて今の自分の気持ちにあう。

小料理屋の個室で岸 惠子が、池部良の前にある瓶ビールを脇にのけて手を広げるシーンに、ドキドキする。

母娘を演じた浦辺粂子と淡島千景のやりとりの一つが、実在の落語家のエピソードを彷彿とさせる。

池部良と淡島千景の過去は『ドライブ・マイ・カー』や『マンチェスター・バイ・ザ・シー』と比較してしまう。

 不倫に対する周囲の反応が興味深い。
うどんの会で、当事者の一人を同僚たちが「不道徳だ」「ヒューマニズムの問題だ」とかなんとか言って吊し上げにする。
当人が帰ってから
「おまえたち、ずいぶん意地悪いな」と傍観していた一人が言うと、話しはいつの間にか変わり
「でも、ちょいと羨ましいよなぁ」と吊し上げていた男が言う。
「お前たちのヒューマニズムもあんまりアテになんねえな」
「でも、うめえことしやがったよな」
「ヒューマニズムってものはなぁ、そんなとき羨ましがっちゃいけないもんなんだ。窮屈なもんなんだ」と言うやりとりが、独特なイヤな感じと妙な着地具合で頭に残る。

小津安二郎観たこと無いんでオススメありますかと、言われて、この映画をあげることはないと思うけれど、個人的に好きな小津映画の一本には入る。
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