スギノイチ

剣と花のスギノイチのレビュー・感想・評価

剣と花(1972年製作の映画)
2.5
渡哲也は資産家の父(森雅之)へのエディプスコンプレックスを齧らせ、その反発心からゴロツキや底辺層とばかりつるんでいる無頼漢だ。
未亡人(赤座美代子)と深い肉体関係を持ち、義理の妹(新藤恵美)にも恋愛感情を持たれている。
ちょっと前の時代なら裕次郎がやりそうなお坊ちゃん無頼、というわけだ。
こういう「なんちゃって無頼」を主役にしてしまうのも日活チック。どこを切り取っても松竹作品に見えない。
「今の俺に出来る事と言ったら、君と寝る事しかない」とか言って青木義郎の釈放を待つ妻を寝取ったのはさすがにどうかと思う。

そんな渡哲也を補佐する刑事を演じるのが田宮二郎だ。渡哲也の学生時代のセンパイという設定である。
(この「センパイ」なる渡哲也映画特有の存在は『無頼シリーズ』からの伝統である)
この時期の田宮二郎はすっかり中年に差し掛かっていて既に顔がタイムショックだが、分別ある兄貴的キャラクターをダンディに演じている。
一方で、妹とくっつけようとする渡哲也の「やっちゃうんだよ。女なんてやっちゃったらこっちのもんだよ」という発言に対して「でも、歳が離れてるし…」ともぞつく新鮮な演技も。

本作が遺作となる森雅之は退役軍人でもあるという設定で、片腕ながらも超厳格な父親を見事に演じている。
剣道を教え込んだ息子と相対し、真剣を構えて問答する場面は名シーンだろう。
渡哲也が「剣を精神の支えにして愛情を踏みつけにしてきたことが、あなたの人生の堕落だ」と森雅之を看破する台詞は痺れてしまう。

終盤になると青木義郎が出所。当然女を寝取った渡哲也に襲い掛かるも、返り討ち。
負けた以上、女はお前のもんだという青木義郎に対して「馬鹿野郎、女は品物じゃない。この人はアンタのもんだ」と押し戻す渡哲也に笑っちゃったぞ。
相手の男気を認めたという演出なんだろうけど、ヤリ飽きたので返しますという流れにしか見えない。
この映画はそれなりに良い映画だけど、この辺の女の扱いはもうちょっとやりようがあるんじゃないの。
スギノイチ

スギノイチ