シズヲ

傷だらけの栄光のシズヲのレビュー・感想・評価

傷だらけの栄光(1956年製作の映画)
3.7
札付きの不良からボクシングのミドル級チャンピオンにまで登り詰めたロッキー・グラジアノの半生。元々はジェームズ・ディーンが主演を務める予定だったらしいけど(サル・ミネオは完全にタイプキャストめいてる)、彼が事故で亡くなっていなければポール・ニューマンの台頭はもう少し遅くなってたのかもしれない。スティーブ・マックイーンが端役で出ていたり、後年の『ロッキー』などの名作に与えた影響が伺えたり、色々と興味深い。

内容自体は“底辺から這い上がり困難を乗り越えて栄光を掴み取る”という王道のサクセス・ストーリーだけど、後々のジャンルのパイオニア的要素が感じられるだけに却って印象的。またポール・ニューマンは『ハスラー』以前なだけに良くも悪くも当時の若手スターっぽさは抜け切れていないものの、瑞々しい演技でロッキーの人物像を表現していて良い。けっこう洒落にならないレベルで素行が悪いので最初はちょっと面食らうが、父親との関係も含めた幼少期の環境が大いに影響を与えていることは伝わってくる。移民層が暮らすニューヨークの町並みや無骨な試合模様を捉えた撮影なんかも好き。

そしてロバート・ワイズ監督の手腕のおかげか、全編通してテンポの良さが際立っている。“刑務官から才能を見抜かれてボクシング部に勧誘される→出所後にプロの世界で快進撃”という流れが連続したシーンとして描かれるなど、場面の編集や時間軸の飛ばし方がめちゃめちゃ潔い。ロッキーと妻ノーマの関係性がそのまま彼の両親の掘り下げへと結び付くような手際の良さも小気味よい。ロッキーを支えようと苦悩し続けてきた母親とボクサーとしての夢に挫折した父親の役どころはさりげなく印象深い。

ボクシングのシーンは全体的に簡潔ではあるものの、それ故に映画のテンポを削がずに一定の抑揚を作り上げている。この当時としては十分な迫力に溢れているし、終盤のタイトルマッチは中々に濃密。改めて見ると『レイジング・ブル』におけるボクシングのシーンは演出も含めて本作からの影響らしきものを感じてしまう。
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