YasujiOshiba

明日を夢見てのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

明日を夢見て(1995年製作の映画)
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大昔のwowwow録画。これはたしか劇場でも見た。トルナトーレのなかでは好きな作品。わけあって録画を見直す。画質は悪かったけど、最初に見た時はわからなかった魅力をいくつも発見。

カメラがよいんだよね。シチリアの村人たちが『風とともに去りぬ』の台詞を口にするところを、手持ちのカメラでの移動撮影をするところなんて実にみごとで、こんなシーンあったのかと驚いちゃった。

さまざまな村人たちや、山賊までもが、それぞれの思いを語り出すところは印象に残っている。ところがそのそれぞれが、シチリアの歴史を語ってるのだと、わかってはいたけれど、改めて確認して、感動が深まる。

星と話をするという羊飼い。溺愛する父親から連れてこられ、カメラ前で自慰のまねごとをさせられる若者。遠くに行きたいと流暢な標準語で話すゲイの散髪屋。演じるのはレオ・グッロッタ。『教授と呼ばれた男』の警察署長、『ニュー・シネマ・パラダイス』の映画館案内係、『みんな元気』では銃を持って屋上から叫ぶ男の依代となった名優だ。

黒いマントを着て街を彷徨う謎の老人は、実はスペイン内戦(1936 - 1939)でフランコ政権と戦った人民戦線軍の生き残りで、夜中に人知れずカメラの前に現れ、唖だと思われていたのに、なんとカスティリア語でその時の思い出を語り出す。演じたのはレオポルド・トリエステ。『ニュー・シネマ・パラダイス』の神父ドン・アデルフィオの依代だ。

そうかと思えば、ペテン師のジョー(セルジョ・カステリット)を襲ったシチリアの山賊(トニー・スペランデーオ)は、逆にジョーのペテンにまんまと騙されてしまい、カメラに向かってその強いシチリア・アクセントで、自分がいかにして山賊になったのかを語り始める。その語りはそのままシチリアの歴史。そこでは支配者が次々と変わっても、人々の生活は何も変わらないという。

そしてなによりも、修道院で生活する無垢なみなしごのベアータ。その見事な依代となったのはティツィアーナ・ロダート。この作品のためにトルナトーレが発見した18歳のカターニアの娘で、母親の反対を説得して出演させたのだという。なんと調べてみると、なんと僕はその後の彼女に、バッティアーティの『シチリア人の夢(Perdutoamor)』(2003)は、クリアレーゼの『海と大陸』(2011)などで再開しているのだ。

その彼女のカメラテストの映像がこれ:《Tiziana Lodato - Provino - L'uomo delle stelle - Tornatore - Castellitto: https://www.youtube.com/watch?v=vsK0D9iilEw》
「ベアータ」(祝福された)という名前に「信心深そうな名前だな」と語りかけるジョー/カステリットに、「わたしは聖母マドンナの娘よ。尼僧のところで生まれたの」と答える。そうは言わないが、ようするに孤児ということなのだ。だから歳もわからない。数も10までしか数えられない。どうやって生活してるのかと聞かれれば、あちこちに手伝いに行って、「ミ・タリオー・ヌーダ」という。シチリア方言がジョーにはわからない。「ミ・タリオー、それどういう意味だ」「ミ・グアルドー、私を見たのよ」。なんと裸を見せて小銭を稼いでいるというのではないか。

そんなベアータは、だからこそ女優になりたいのだという。なぜなら人生には「いつだって明日がある/明日は明日の風が吹く」(Dopo tutto domani è un altro girono)のだから。どんな映画が好きかと聞かれれば、ラブストーリーだという。みんなキスをして、ハッピーエンドになる映画...

そうなのだ、トルナトーレはこの作品をハッピーエンドにするつもりだったのだ。というのも、この映画がご存知の通りの悲しいラストになったのは、実のところ予算を使い果たしてしまったから。実のところ、『ニュー・シネマ・パラダイス』の「みんながキス」をする「ハッピーエンド」を超えるラストを構想していたのだという。

しかし、そのためにはヴィクター・フレミングの『風と共に去りぬ』(1932)をレンタルし、ピエトロ・ジェルミの『IIl brigante di Tacca del Lupo(タッカ・デル・ルーポの山賊)』(1953)の戦闘シーンの撮影現場を再現する必要があった。フィルムの借用料も撮影シーンの再現も、膨大な予算が必要になる。しかし、もはや予算は残されていない。トルナトーレがそれまでに映画で稼いだお金も使い果たしてしまった。

こうしてやむを得ず、あのラストになったのだという。それがどんなラストになるのか。今週の土曜日にカルチャーセンターで話してみようと思う。なにしろ映画のもうひとつのラストシーンは漫画にもなっている。そのリンクがここ:(https://www.repubblica.it/spettacoli/cinema/2017/07/07/news/giuseppe_tornatore_finale_uomo_delle_stelle-170235605/)

イタリア語が読める方は、読めばなるほどと思うはず。土曜日がすぎて覚えていたら、ここにラストシーンの詳細を上げることにしますね。

追記:ラストの漫画、ここにアップしときました。
https://hgkmsn.hatenablog.com/entry/2022/08/21/181400
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