HicK

桐島、部活やめるってよのHicKのレビュー・感想・評価

桐島、部活やめるってよ(2012年製作の映画)
5.0
*軽度のネタバレあり

《悩みを大きくさせる小さな世界》

【エンパシー】
ループされる金曜日。同時進行する青春群像劇。等身大の痛み、悩み、空虚感、沢山詰まった2時間弱。何人もの感情が一気に自分の感情タンクに入りパンクしそうになる。何人もの感情が自分の頭を乗っ取り離れない作品。

【素晴らしい演出】
繋げ方、切り方が本当に上手い。リレーのバトンのよう。原作は持っているが、監督の演出を見て、これこそ映像化する意味のある作品だと思った。同じシーンが何度もアングルを変えピントを変えて登場する。本当に何人もの生徒が実際に生きていると感じられる演出。同じ日のシーンでもループにより少し前の出来事をちょこっと見せたり、少し先に進めてみたり、ちょいだしが興味をそそる。最初の金曜日ループで心を掴まれた。

【バド部のミカ】
彼女はいつも二番手。だからこそ苦労もしてるし周りもちゃんと見えている。同じく二番手であるバレー部の風助を見守り、彼らを茶化す者たちに反抗する正義感もある。演じてる女優さんがとてもいい。少しつっついたら涙が爆発してしまうんじゃないか位の感情を溜め込んだ精神状態が表情で伝わってくる。この作品で一番演技が上手いと思った。あとは野球部のキャプテンも演技良かったなー。

【吹奏楽の沢島】
一番ストーリーには関わってないのだが、彼女のお陰でクライマックスがより切なくなっている。好きな人が目の前で他の女子に…なんて人生のトラウマもの。その後の演奏が彼女のやるせない気持ちを乗せているように切ない。クライマックス、その演奏を背景にしながらシーンが進んで行き、彼女やみんなの気持ちが音楽を通しリンクして行く。もう本当に複雑な気持ちいっぱいのシーンになった。

【前田とかすみ】
前田のかすみに対するいたたまれない思い。屋上シーンでの映画撮影に彼の行き場のない気持ちが爆発していた。かすみも前田に対して優しい気持ちを持ってたり、親友絡みでの正義感もあるが、周りに合わせてしまうというリアル感も伝わってくる。彼女の心理描写はあからさまにされてない分、抱えているものが読めない少し深さのある人物になっているのも良かった。

【梨沙と沙奈】
世界のトップに君臨したかのような見下し感が素晴らしい。仲間でもあるバド部のミカが傷ついた分だけ人の痛みも分かるのに対し、彼女たちの自分の事で精一杯というキャパのなさの対比が面白い。裸の王様というか、何をもってカースト制度なのかという青春の可笑しなルールはもはやブラックジョーク。

【宏樹】
周囲に作り出された人物。周りに流されて、本当の自分を見失う。カースト下位の奴らの一生懸命さに、「負けている自分」を改めて気づかされ情けなさの感情が溢れ出るシーンはとても良かった。前田と宏樹のステキなシーン。心の充実度でカースト制度が逆転し、同時にそんな制度なんてくだらないと思わせてくれる。今作で一番素直な人物だろう。

【ちなみに】
内容関係ないが、バレーボールのシーンのクオリティの高さに驚く。久保役の鈴木も風助役の太賀も初めてらしいがさまになっている。久保に関してはもう打ち込みフォームとか強豪校の選手並みに完ぺき。経験者じゃない事の方に驚いた。

【総括】
後半の前田のセリフは印象的。
「戦おう、この世界で。俺たちはこの世界で生きていかなければならないのだから。」それを後押しするかのような、高橋優の主題歌。やはり、学校は彼らの世界であり、世界か狭い分だけ悩みが大きくなる。人生経験が少ない分、たとえ悩みが大人にとって笑えるぐらいであったとしても、キャパシティのなさで悩みに支配されてしまう。そう考えると、大人が暮らす社会よりも、学校ってよっぽど過酷で辛い世界。ただ逆に、小さな世界だからこそ喜びが大きくなる事も自分は経験した。大人以上に一生懸命に生きている彼らを見て、その世界にいるからこそ感じらる喜びも教えてあげたくなった。なんだか、色んな生徒の気持ちが一気に入ってきてパンクしそうだった。
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