CHICORITA主任

桐島、部活やめるってよのCHICORITA主任のレビュー・感想・評価

桐島、部活やめるってよ(2012年製作の映画)
4.8
吉田大八監督『桐島、部活辞めるってよ』。
2012年の公開から10年を記念した再上映。恥ずかしながら初見でした。
公開時期も劇中の日付・曜日の並びと一致する時期が選ばれており(11/25金曜日から始まる)、企画者の作品に対する深い愛情が感じられます。

10年という時を感じさせない、普遍的強度をもった青春映画の傑作でした。
冒頭の視点をずらしつつ繰り返される金曜日のくだりの素晴らしさだけで観る価値あり。神木隆之介や橋本愛、東出昌大など俳優陣のまだ初々しい10代の頃のフレッシュな演技も、この時にしか撮れなかったものとして価値が高い。

評判の高さは耳にしており、青春映画、というジャンルからもっと爽やかな読後感を想像していたのだけど、ものすごく苦い、青春の古傷をちくちく刺すような痛い映画に感じられました。自分が青春を終えたおっさんだからかもしれないけど。
神木隆之介演じる前田くんら映画部の面々は本当に愛おしく癒しを与えてくれたし、自分の現実の学生時代の立ち位置や精神は彼らに近かったと思う一方で、自主映画を撮るという本気の活動を行うことで「好きなこと」にまっすぐ向き合うことが、果たして自分にはどれだけできていただろうと後悔の気分もわいてきたり。
なのでどちらかというと、同じく前田の姿勢に打ちのめされる、元野球部の宏樹の方に感情移入してしまいました。スクールカースト上位に位置し、頭も要領もいいから自分が野球で大成しないと早々にわかってしまい、好きだけど野球をあきらめてしまったのだろう彼の姿には、本気で打ち込めるものを見つけられないという、青春を超えて人生における危うさを突きつけられたようで震えます。今の自分には大好きで夢中になれることがあるけど、もしなかったら空っぽの人生に絶望していたのかも。
しかし本当に絶望したのは、高校生の広樹にはまだまだ「この先」がある、いくらでもやり直すチャンスがあるのに対して、30代も後半の自分には残された青春なんてもうないという、いかんともしがたい現実に対してなんですけどね!笑

観るものの過去や現在に応じて様々な顔を見せてくれる、いい意味で余白の多い素晴らしい映画です。名作の誉高いのも納得の完成度。
初見が映画館で本当に良かった。
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