学校の人気者である桐島が部活をやめた。そんな噂が学校内を駆け巡り、人間関係が揺らいでいく様を描いた青春群像劇。
久々に再鑑賞してみたところやはり面白い。
金曜日の放課後、桐島が部活をやめたという噂を起点にしてそれぞれの人間関係が移ろっていく。
登場人物をざっと整理するとこうなる。
・前田(神木隆之介)
映画部に所属し、自分の好きなことを突き詰める。クラスのヒエラルキーでは下位に位置する。
・かすみ(橋本愛)
前田とは中学の同級生。クラスのヒエラルキーの上位に位置する。好きな物はあるが、ヒエラルキーの上位にいるせいで自分を押し殺している。
・宏樹(東出昌大)
霧島の親友。クラスのヒエラルキー上位に位置するも野球部をやめ、今は帰宅部。
他にも登場人物は多くいるが、本作で最重要なのはこの3人だと思う。
もはや周知の通り本作には桐島は登場しない。桐島が不在のまま物語は進行する。大事なのは桐島が部活をやめたことによる周囲の人間関係の移ろいだ。そして、本作の主人公は前田であるんだけれど、本作の描き方を見ると、紛れもなく主人公は宏樹だと思う。
霧島の不在によって多くの登場人物の心が揺れる。
霧島の恋人・梨紗は当然ながら、それは梨紗の友人たちにも伝播する。桐島の部活のメンバーには動揺が走る。劇中でとにかく右往左往する。そんな中で重要なのは上記の3人。
前田はクラスのヒエラルキー下位にいるので、桐島とは一切の関わりがない。桐島が部活をやめようが関係ない。なぜなら前田には自分の好きなジャンルの映画を部員たちと作り上げることだけが大切だからで、ずっと一貫している。対してかすみは自分の好きな物を押し殺し、なんとかクラスのヒエラルキーの中で生きようとしている。桐島の件でそんな状況に疑問を持つようになる。この2人の対比も面白いが、やはり本作で最も面白いのは前田と宏樹の対比だ。
物語は金曜日を起点に人間関係が右往左往する。そんな中にあっても映画部の面々はずっとゾンビ映画を取り続ける。本作の白眉は決して交わらなかったヒエラルキー下位の映画部と桐島の件で揺らぐヒエラルキー上位の面々たちが交わるシーンだ。屋上でゾンビ映画を撮り続けていると、桐島を見たと騒いだヒエラルキー上位の面々がやってくる。それでも前田は映画を撮り続ける。ゾンビたちがヒエラルキー上位の面々を食っていく。本作ではヒエラルキー上位の面々を空っぽの存在として描いていて、それに対して「俺たちはやりたいことをやっているんだ!!!」とぶつけているように感じられとても良かった。
ここで宏樹と前田の邂逅シーン。屋上の件が終わった後、宏樹と前田が8ミリカメラ越しに会話をする。宏樹に対して前田は少し照れながら映画愛を熱弁する。そこで宏樹は涙する。宏樹は野球部をやめたものの運動神経が良いから何でもできるし、ルックスも良いし、モテる。それでも前田と会話して現実に気づいてしまう。自分は空っぽだと。
物語は宏樹が野球部の練習風景を眺めながら桐島に電話するところで何とも言えないラストを迎える。
本作の主人公は公式には前田だ。それでもやはり僕は本作の主人公は宏樹だと思う。前田は自分の好きな物をはっきりと自覚し、それに向けて邁進できる、ある意味、超越した人物だ。対して宏樹は「自分はこのままでいいのか」という揺れ動く人物だ。だからこそ主人公だし、宏樹のその後に思いを馳せずにはいられない。
本作で印象的なところは「俺たちはこの世界で生きていかなければならないのだから」という台詞だ。これはかすみに向けた言葉であり、宏樹に向けた言葉であり、観る者全員に向けた言葉だ。「お前、本当にこのままでいいのか?」と今の立ち位置に疑問を突きつけてくる。何とも素晴らしい作品。
以下は個人的なメモ
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朝礼で映画のタイトルを読み上げるとき笑うのマジで最低。
映画秘宝
テーマは自分の半径1メートル。
君たちにとってゾンビはリアリティある?
生徒会オブザデッド
東原さん、グロい映画が好きとか推せる
桐島桐島と大騒ぎする中、ぶれない映画部の面々
宏樹と前田のシーンが最高
自分がない空っぽの存在である宏樹
「俺たちはこの世界で生きていかなければならないのだから」
ヒエラルキーから降りた桐島
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