らんらん

ブルー・イン・ザ・フェイスのらんらんのレビュー・感想・評価

4.9
ウェイン・ワン、ポール・オースター、共同監督、1995年。

『スモーク』(同年)に続きこちらも鑑賞。『スモーク』のスピンオフみたいな作品です。

(以下、成り立ちをWikipediaより抜粋)

1995年に「スモーク」を撮り終えた頃、余ったフィルムでなにかできないかと考えて撮られたのが映画「ブルー・イン・ザ・フェイス」である。即興で作られたため6日間で撮り終えられたこの作品には、「スモーク」に出演したハーヴェイはもとより数多くの俳優が集まり、その中にはルー・リード、マイケル・J・フォックス、マドンナなどがいた。オースターはこの作品の脚本執筆及び副監督を務めている。


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全編、ニューヨーク、ブルックリン。ブルックリン賛歌と言っていい。

ドキュメンタリー形式のインタビューと、劇が交差する。劇部分も即興性が前面に出ている。

インタビューの筆頭はルー・リード。一応「眼鏡の男」という役名らしい。
カイテル同様、実際ブルックリン生まれのルー・リードが、煙草の話や街の思い出を語る。煙草屋のカウンター内側に陣取り、煙草片手につらつら喋っているだけだけど、オチには笑った。
加えて、実際のブルックリンっ子達が街の魅力を語る。

劇部分がまた軽妙で面白い。

煙草屋に集う人、駆け込んで来る人。住民のたまり場となる煙草屋で、店主オーギーは穏やかな聞き役だったり、ブチ切れたりしている。半分世捨て人、半分街のカウンセラーみたいなオーギーを演じる、ハーヴェイ・カイテルの笑顔がこの上なく良い。(いつもはちょっと怖いのにね)

1990年代初頭、舞台はこの煙草屋と、店前の道路。

ジム・ジャームッシュ(役名ボブ)が「最後の煙草をオーギーと吸いたい」と店にやって来る。
「コーヒーと煙草は本当に相性がいいよな」。
実際この時、『コーヒー&シガレッツ』(2003)はもう第三話まで撮られていて、名作の風景を想像してワクワクする。
ただし最後のジョークはちょっといただけない。「最後の一本」という重みを出したかったのかもしれないけれど、それはやめて。

店内ではジョン・ルーリー・バンドが演奏する。
店頭にはマイケル・J・フォックスが通り掛かる。
マドンナが電報を持ってくる。
ル・ポールはダンスの輪を広げ、交差点はまるでダンスホールに!
トミーと馬鹿話をするマイケル・J・フォックスの、脇に座っているジミー(ジャレッド・ハリス)が私は好き。

永久欠番の42番を付けたドジャースのジャッキー・ロビンソン選手の幽霊まで登場して、街の魅力をダメ押しする。
1958年までブルックリンを本拠地としていたドジャース。ロサンゼルスへ移転してしまったのはブルックリンっ子にとって本当に痛手だったんだなぁ。そんな話も段々薄れて行くんだろうけれど、本作の90年代に生きている人は、多かれ少なかれ誰もが心に喪失感を抱えているようなのだ。

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このほぼ即興企画の為に、当時のスターやアーティストが続々(幾人かだけど)集まったのも興味深い。
皆楽しそうで、ハッピーな柔軟さが心地よい。掛け合いも秀逸。

当時のブルックリンは、「子供が銃をぶっ放す」ような、危険と隣り合わせの街だったそうだ。時を経て、今ではアーティストの集まる芸術の街、おしゃれな街に(行ったことないけど)。
その変貌には本作も小さな一役を買っているのではないかと思えてくる。
但しオーギーの煙草屋はもう必要ないのかもな。

架空の登場人物達にもう一度、インタビューが出来たら良いのに。


追記
書き忘れましたが、トーキングヘッズのデイビッド・バーンが音楽を担当しています。
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