ゆかちん

わたしを離さないでのゆかちんのレビュー・感想・評価

わたしを離さないで(2010年製作の映画)
3.0
なんか不思議な作品だった。
扱う題材が近未来SFクローンの命の問題提起ぽいけど、それよりもただ純粋に「生きるとは」ということを示して視聴者に振り返ってほしかっただけみたいな。
でも、ハッキリこれだ!みたいな突きつけ感というより、抱える問題がフワッと境界線曖昧に押し寄せてきて、何ともいえない切ない余韻になりました。。

原作がノーベル文学賞を取ったカズオ・イシグロ。
この映画のあと、日本でもドラマになってたようで。
そして、なんかこういうショッキングな設定の割にトーンは控えめで、でも結構重いものを投げてくるみたいな感触、エクス・マキナみたいだなぁと思ってたら、脚本がエクス・マキナのアレックス・ガーランドだった。
監督はColdplayの好きな曲のMV撮ったマーク・ロマネク。
あと、代表作やる前らへんの有名俳優たちの演技が観れたのも良かったなぁ。



外界との接触を禁じられた特別な寄宿学校で暮らしていたキャシー(キャリー・マリガン)、ルース(キーラ・ナイトレイ)、トミー(アンドリュー・ガーフィールド)はある日、自分たちが臓器提供のために育てられていたと知る。逃れられない運命に縛られ、定められた生をなぞっていく3人の行き着く先は……。




臓器提供のために「作られた存在」を描く作品なんやけど、こういう題材となると、「本物の人間VS作られた存在」の闘いが発生しそうなもの。オリジナルがいるって言うてたから彼女らもクローンなのかな。
本作は、「アイランド」とかみたいに、クローンにも生きる権利はあるみたいな流れで反乱起こしたり、オリジナルを倒したりしない。「エクス・マキナ」みたいに自分の人生を生きるために周りを犠牲にしない。
彼女らは禁忌を犯してまで生きようとはせず、せいぜい手術の猶予を「申請」しようとするだけ。自分の運命に対して涙することはあっても、自分が生きるために誰かや何かを犠牲にしようとは思わない。こういうものと受け入れて、そこから外れようとはしない。
物語的には、そこを問題にしてるわけではないからやろうね。
そうプログラムされてる感じて設定なのかな〜。

ただの「クローンにも命がある!」的な話というより、メインで伝えたいことは、『短い命とわかっている若者たちを軸に置くことで、「生きる」とは何か、「人間」とは何か、「生」を感じる生き方をしているか…?』ということなのかなぁというか。
クローンでなくても、病気とか、後何年で地球が滅亡するとか、テクノロジーか魔法で未来を知ってしまった人とか、そういう設定でもいいのかもだけど、それをクローンの臓器提供という設定で表現したってことなのかなって。
だから、「1952年 不治とされていた病気の治療が可能となり 1967年 人類の平均寿命は100歳を超えた」と最初にあったように、設定を未来にするのではなく、昔に設定してパラレルワールド的な感じにしたのかな。


怪しかったエミリー校長は、キャシーたちの寄宿学校を臓器提供の倫理を実践する最後の場だと言っていた。
クローンを利用するだけの人かと思いきや、彼女はむしろ「クローンも人間である、魂がある」ということをクローン医療を利用する本物の人間に見てもらう活動をしていたってことか。
でも、いくらクローンにも魂があると見せられても病気を治したいというのは変わらず。
それが、「また昔のようにガンや精神疾患で苦しみたい?答えはノーよ。」という言葉のことだろう。

うううむ。
でも、最後、自分たちと救った人の間に違いがあるのか、“生”を理解することなく命が尽きるのはなぜか?という問いかけもあったし、むむむん。


題材やエミリー校長の話を聞いてると、クローンの倫理の話を考えさせられる。
でも、途中、映画を見てる間は、クローンとかいうより、若者の恋愛模様や生き様の作品を見てる感覚だった。
メイン3人の三角関係とかね。

なんか切ない。
間にルースが入らなければ、キャシーとトミーは短い命でももっと幸せだったのかな。
てか、なんでトミーはキャシーへの想いを貫かなかったんや。トミーは優しい人柄なんだけど、イエスノーを言えず流されやすいということか。

キャシー役のキャリー・マリガン、健気で真面目、でも、どこか儚げっていうのがとてもハマってた。冷静で賢い。怒りも悲しみも恋心も性欲もグッと抱え込む。優等生タイプ。「私を離さないで」の曲が切なかった。

ルース役のキーラ・ナイトレイ、前髪パッツンで可愛い。そして、気が強くて周りを振りまわす女子。嫉妬、独占欲、人が欲しいものが欲しい、自分が優位に立ちたい…こういう自分の価値を見出したいことからくる行動、なんか子どもみたい。嫌な子かと思いきや、罪悪感はあって…て。でも、最後、キャシーの言葉を聞いて笑顔になれなかったのも、そらそうやろな〜とも、うーむ。こういうのも人間らしかったな。


トミー役のアンドリュー・ガーフィールド。スパイダーマンになる前。ソーシャルネットワークあたり?ふわふわして大人しめで子犬っぽい。でも描いてる絵が病んでるやつみたいやった。

みんな、大人のようで子どものままの純粋さと知能って感じなのもなんか苦しかった。


そうそう、3人が暮らしたコテージにいた先輩にドーナル・グリーソン!ハリポタあたりかな。噂話を信じてる話とか、なんか切なさあったな。
爽やかで大人な表情と不安げ不満げ表情がよかった。
ドーナル・グリーソン作品、着々と観てるな。

あと、最初に少し出てきたルーシー先生にサリー・ホーキンス!服装も含めて可愛かった。この先生の気持ちわかるなぁ。なんか悲しみ。


観てて最後に残った感情は悲しかったし、もしルースがいなければもっとたくさんトミーと愛を育めたやろうにとか思ってしまうけど、終了する前に2人の愛を確認できたことは、良かったのかなぁ。
うううむ。
本人たちもルースが悪いとも思ってないみたいやし。んー。

なんか、最後のシーンの景色みたいな気持ちになる作品でした。
でも、「何か感じさせる」良い作品だと思いました。
ゆかちん

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