HAYATO

わたしを離さないでのHAYATOのレビュー・感想・評価

わたしを離さないで(2010年製作の映画)
3.7
2024年170本目
過酷な運命を背負う若者たち
2017年にノーベル文学賞を受賞した日本生まれのイギリス人作家・カズオ・イシグロの同名小説を映画化
外界から隔絶された田園地帯に佇む寄宿学校で共に育ったキャシー、ルース、トミーの3人。キャシーは内気で周囲に馴染めないトミーと親密になっていくが、いつの間にかルースがトミーに近づき恋人関係になったことにショックを受ける。そんな中、生徒たちは自らが臓器提供者となる運命にあることを告げられる。18歳になったキャシーら3人は、“提供”の開始を待つための施設”コテージ”へと移る。
『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランドが脚本を執筆し、多数のMVを手掛けているマーク・ロマネクが監督、『華麗なるギャツビー』のキャリー・マリガン、『ソーシャル・ネットワーク』のアンドリュー・ガーフィールド、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのキーラ・ナイトレイが主演を務めた。共演に、『DUNE』シリーズのシャーロット・ランプリング、『マレフィセント』のエラ・パーネル、『シェイプ・オブ・ウォーター』のサラ・ホーキンス、『アバウト・タイム』のドーナル・グリーソンなど。主演を務めたキャリー・マリガンは、原作小説をいたく気に入っていて、積極的にこの役のキャンペーンを行ったそう。原作小説は、本作に続く形で2014年に蜷川幸雄さんによって舞台化され、2016年にテレビドラマ化もされている。
静かでひんやりした雰囲気と、衝撃的でメランコリックな内容のギャップが大きい。自分たちの命が「誰かのため」であり、固有の人生を生きられない若者たちの青春は観る者の心を深く突き刺す。設定こそマイケル・ベイ監督の『アイランド』に似通っているもの、娯楽性は薄く、より道徳観や倫理観に鋭く訴えかけ、切なさや残酷さが印象に残る作品だ。
劇中では「提供」や「終了」といった独特な使い方をした言葉が飛び交うが、それらを説明するセリフや描写はほとんどなく、主人公たちが所謂「普通」の世界とは全く違う世界で生きているということを強く感じさせる。
己の運命を驚くほど素直に受け入れる“提供者たち”。怒りや憎しみの感情を抱かず、生への欲求が芽生えない彼らの姿を通し、人間のクローン開発の恐ろしさを垣間見た。
HAYATO

HAYATO