たく

幸福の設計のたくのレビュー・感想・評価

幸福の設計(1946年製作の映画)
3.7
円満な夫婦が手にした高額な宝くじの当選券をめぐる騒動を描くジャック・ベッケル監督1946年作品。全編とにかく会話が忙しいコメディなんだけど、ときどきカメラワークが不穏な動きをして緊迫感を高めるのが印象に残った。ベッケル監督といえば何といっても「穴」で人の心の弱さが露わになる怖い結末が忘れられなくて、本作の終盤であわや死人が出るかという怖さに通ずるものを感じた。貧乏人が大金を手にすることで起きるドタバタを描く作品は、「ル・ミリオン」(1931年)、「7月のクリスマス」(1940年)とか、この当時はけっこうあったんだね。

パリの下町で慎ましく暮らすアントワーヌとアントワネット夫妻(=原題"Antoine et Antoinette")。冒頭でアントワーヌの人の好いおせっかいぶりと、アントワネットが街中の男から羨望の眼差しをもってチヤホヤされてる人気者であることが示される。特に食料品店の店主のローランがアントワネットにしつこく言い寄るのが観ててムカムカするんだけど、これが終盤の大乱闘へとつながる重要なキャラ。

本作はアントワーヌが宝くじの当選券を失くしてさあ大変という騒動が軸になってて、いわゆる勘違いコントみたいな仕掛けにアントワーヌがいつ気付くかというのが見どころなんだけど、オチは途中で読めてしまった。そのいっぽうで、大金を目の前にすることによって人の心がさもしくなる怖さもちょっと描かれてて、当選券を失くしたことで妻の気持ちが離れるんじゃないかという思いがアントワーヌの脳裏に一瞬よぎったり、失くした財布をわざわざ自分に届けてくれた人を疑ったりするのが、冒頭の人の好い彼の姿と対比されてた。
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