真田ピロシキ

ローマの休日の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ローマの休日(1953年製作の映画)
3.5
地上波放送は時間を縛られる上にCMが嫌いなので見ないのだけれど、こんな古い映画をTVでやるのは映画文化を伝えようとする金ローの意思を感じられてちょっと感激。しかも新吹き替えで、ただ最近の人気声優を起用しただけではなく古い映画の情緒をしっかり感じさせる良いもの。早見沙織はレオナ姫も平徳子も地獄のフブキも魅力のある声はしても似たような演技に感じていたのだけれど、本作は引き出しの深さを見せて売れっ子になるだけの理由を思わされた。

映画自体について言うと私は日本の天皇は勿論、エリザベスとか他国の王室も果たしている役割はあるのかもしれないが差別であり人権侵害だと思っているので、冒頭の甚だしい不自由に不満が爆発して逃げ出すアン王女の姿には応援味がある。それで閉じた世界で生きてきたアン王女にはネグリジェではなくパジャマを着たり、街の美容室に入り屋台のジェラートを食べたりと世間知らずの天然お姫様キャラを植え付けようとしているかのように見えるが本当は聡いお人。ブラッドレーの嘘には有名な真実の口の時には薄々感づいていた事が匂わされてて、聡明さを思うともしかしたら疑惑を抱いたであろう警察の前から知った上で相手の目論見に乗って自分の意を通そうとしていた節も感じられる。そんな彼女が最終的には求められる自分の役割に戻る事を選んだのは、特ダネのために自分を使おうとしなかったブラッドレーの正直さへの答えじゃなかろうか。私の本音としては王室なんか捨てるべきだという思いだけれど、ブラッドレーだけでなくカメラマンのアーヴィングも利益より信義を最終的には取れる人で、これを見ると私個人の思いは些細なことかと思えてくる。オードリー・ヘプバーンの類まれなるアイドル力でラブコメ映画と思っていたが、久々に見ると人物描写が思ったよりずっと深い人を信じる物語。そんな脚本を書いたのが赤狩りでハリウッドを追放されていた偽名のダルトン・トランボなのがより意味深く、匠の技である。