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肉体の門のnetfilmsのレビュー・感想・評価

肉体の門(1964年製作の映画)
3.7
 闇市の夜をモンペ姿の女が不安げな表情を浮かべ、周りをキョロキョロしながら歩いている。やがて彼女は警察に連行される数人の女性を目撃する。脚を引っ張られながらもその場にしがみついて離れない女たちは警察に力づくで連行され、トラックに連れられる。それはあっという間の出来事だったが、トラックで連行される女たちの怒声が響く。その集団の中に17歳のマヤ(野川由美子)の姿もあった。一方その頃、米軍基地から武器弾薬を盗み出した集団は後ろからトラックに猛追され、射殺される。だが銃声が止んでしばらくしたところで、建物の通気口から伊吹新太郎(宍戸錠)が顔を出す。口笛を吹きながら颯爽と歩くその姿は逞しく見える。翌日、パンパンが一掃された闇市は活気を取り戻していた。第二次世界大戦の終戦後、食うか食われるかの極貧にあえぐマヤは空腹に耐えかね、焼き芋を盗むのだが闇市を牛耳る阿部(和田浩二)に掴まってしまう。草むらで誰かに強姦された彼女は関東小政のおせん(河西都子)のグループに仲間入りする。薄汚い廃墟のような場所には、おせんと行動を共にするジープのお美乃(松尾嘉代)やふうてんお六(石井富子)、町子(富永美沙子)らがいた。ようやく集団生活に慣れ始めた頃、瀕死の重傷を負った伊吹新太郎が担ぎ込まれる。

 焼け跡からの復興を余儀なくされた路上の放浪者たちは互いに結託し、生きていくことしか出来なかった。おせんのグループも決して人数は多くないが、彼女たちはよその女に縄張りを荒させない、ただで男と寝ないという鉄の掟を守り、その掟に背いた者は激しいリンチを受ける。彼女たちの住む廃墟はさながら地下の楽園としての性質を帯びる。身体を洗い食事をするだけでなく、時には全員で歌を歌いながら彼女たちはこの暗い世相を打破しようとする。だが束の間の楽園はそう長くは続かず、女だけの園に1人の野獣が入ることで彼女たちの緊張関係は大きくバランスを崩す。町子が拷問を受ける中、鞭打たれる彼女の金切り声にマヤが感じる恍惚。ルカ・グァダニーノの『サスペリア』のように肉体的苦痛はどういうわけか伝播し、マヤの心の中に浮かぶトラウマをも浮かび上がらせるのだ。天涯孤独な彼女はたった一人の兄を戦地ボルネオで亡くし、孤児となった。彼女は伊吹の日焼けした肉体に亡き兄への想いをオーバー・ラップさせる。4人の娼婦たちの色鮮やかな緑、赤、黄、紫の衣装はデイミアン・チャゼルの『ラ・ラ・ランド』に継承される。どぶの水のような世界で蠢いていた人間たちの苦しみはせっかく戦争を生き抜いたにも関わらず、無残に命を散らしていく。無法地帯の断末魔の叫びはいつも時代に搔き消されていく。
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