Keigo

終わりなしのKeigoのレビュー・感想・評価

終わりなし(1984年製作の映画)
4.4
キェシロフスキ作品は『トリコロール/青の愛』だけを観ていて今作が二作目。

暗い。とても暗い。
でも、惹かれてしまう。
冒頭暗闇に数多の灯りが灯る映像と悲壮感漂う音楽、そこからの一連の流れに強烈に引き込まれる。男が部屋で、手を握ったり開いたりしている。寝ている男児に手を伸ばすが、触れそうで触れない。7時12分。部屋を練り歩き、寝ている女の脇に座った男はこちらをまっすぐ見つめながら言う。
「私は死んだ。4日前に」

共産主義、戒厳令、反体制。
当時の時代背景やポーランドの情勢についてふわっとした知識しかなかったので、理解が及んでいない箇所もあるのかもしれない。その辺りの知識が豊富ならさらに深く感じ入ることが出来たのかもしれないが、この程度の理解でも置き去りにされてしまうほどでは無かった。

諦念と死の予感、とにかく暗く陰鬱な空気が終始作品中に充満している。それは政治的に抑圧された当時のポーランドの雰囲気でもありながら、亡くなった男の妻である主人公の喪失感に重なるようでもある。

理想を信じ追い求めて生きる人。
現実に折り合いをつけながら生きる人。
喪失を受け入れるということ。
失って初めて気付くこと。
理想と幻想の境目は、どこにあるのか。

彼女は夫の死を、彼女を取り巻く現実を、受け入れることが出来たのだろうか。
終盤主人公がマッチで火を点しながらカメラ越しにこちらを見た時に、結末を予感する。
もはや中庸でいられなくなった彼女の選択を、今度は観ている自分が受け入れなくてはならなくなる。

幻想の中へと消えていく2人の姿を見ながら、『終わりなし』というタイトルが意味するところを考える。
Keigo

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