佐藤克巳

綴方教室の佐藤克巳のレビュー・感想・評価

綴方教室(1938年製作の映画)
5.0
山本嘉次郎監督の製作主任に黒澤明が就いて見違える作品が頻出した気がするが、その初期秀作の一本であり、戦後の吉永小百合主演「キューポラのある街」と作品内容が酷似している気もした。また、高峰秀子が少女スターに躍り出た記念すべき作品で、葛飾の長屋住まいの貧しい家族のあり様を、丁寧にリアリズムで綴った佳篇で忘れがたい郷愁を秘めている。ブリキ屋職人父徳川夢声、母清川虹子は、善良で真っ正直故に、自転車盗難に遭い雨続きで廃業し日雇い人夫に転落するどん底生活を強いられた。その長女高峰演じる原作者豊田正子の、小学6年生3学期間を明るく正直に日々を綴ったオムニバス的な語りが見事。「赤い鳥」に掲載されたうさぎの逸話は有名だが、うさぎをくれた隣のおばさんが、キリストを神頼みして笑いこける高峰と弟や、女工に就職が決まって卒業写真を撮り、担任の先生滝沢修と別れるラストが清々しい。
佐藤克巳

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