三隅炎雄

絶唱の三隅炎雄のネタバレレビュー・内容・結末

絶唱(1958年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

滝沢英輔の最初の映画化。百恵・友和版は封切で見たが粗筋程度しか覚えていない。これも正直あまり面白くないなあと見ていたのだが、小林旭が戦地へ行く辺りから何だか徐々に画面が凄みを帯びてダニエル・シュミットみたいな世界になって行く。最後はデカダンの極み。絶唱。死と沈黙のオペラだ。

戦況が厳しくなり画面からひとりふたりと人が居なくなるにつれ、浅丘ルリ子も衰弱していく。映画には銃声も爆音も鳴り響かず、世界を死の静寂が徐々に包んでいき、その陰気は終戦が素通りされ全く描かれないまま、戦後に持ち越される。ここでは戦前戦後は死の静寂と共に地続きだ。
仲間が漸く戦後を生きる決意をし、夫の小林旭が復員すると同時に、彼らの生への帰還の代償のようにしてルリ子は死ぬ。そもそもルリ子は戦地へ行った男たちの代わりに重い肉体労働をして病んだのであった。

村総出で行われる奇怪で倒錯的な愛の儀式は、オーケストラ抜きの後期ロマン派オペラを見ているようだ。最後にやっとふたりの二重唱が響く。かけがえのない死者との愛の絶唱が。

舟木一夫・和泉雅子版も見たが、ティーン向けに退廃を涙に変えた単純な悲恋ものにしている。私が封切で見た百恵・友和版も監督が同じ西河克己なのでその路線だったのだろう。
三隅炎雄

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