猫脳髄

地獄の謝肉祭の猫脳髄のレビュー・感想・評価

地獄の謝肉祭(1980年製作の映画)
3.3
アンソニー・M・ドーソンことアントニオ・マルゲリーティ監督によるイタリア・スペイン産、人肉食パニック・ホラー。イタホラ本でよく見る「お肉アムアム兄ちゃん」は本作のスティルである。ヴェトナム帰還兵に材をとる作品は数あれど、ホラー・ジャンルかつ1975年のアメリカ軍撤退前後に製作された作品となると実はわずかである(※)。さらに、本作を含めアメリカ国外での製作ばかりという状況である。

ヴェトナムから帰国後、戦場で人肉食を覚えてしまった部下のフラッシュバックに悩まされるジョン・サクソン。精神病院に収容されていた部下のひとりが外出時に他人に噛みつき、殺人を犯して立てこもる。サクソンの説得に応じて病院に戻された男だったが、もうひとりの部下とともに周囲に噛みつき始め…という筋書き。

ヴェトナム戦争(に限らないが)の後遺症で人格を破壊され帰還した兵士たちの姿に当時のアメリカ人は大いに衝撃を受けた。戦争の英雄かそれとも「凶暴な他者」か。その葛藤を映し出した作品は枚挙に暇がないが、本作は人肉食の衝動が「感染する」という設定を持ち出した。見た目や知能はまったく正常であるにもかかわらず、衝動が抑えきれなくなるという点で、ゾンビ的造形ではなく、より人間的で区別のつかない恐怖をめざしたと言える。

特殊メイク(ジャネット・デ・ロッシ)によるゴア表現でスプラッターの看板を掲げはするが、火炎放射器でヴェトコンを追い立てていた帰還兵たちが、今や自分たちが逃げ回る下水道で警察のそれに狙われる姿が哀れである。終わり方も余韻を残すが、「戦争の狂気」と感染テーマとの両立がうまく図れておらず、成功したとは言い難い。ヴェトナム戦争の強度はホラーと相性が悪いかもしれない。

※カナダでボブ・クラーク「デッド・オブ・ナイト」(1974)が製作されているようだが、残念ながら未見である
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